刷られすぎる紙幣
世界中の中央銀行が紙幣を刷り続けている。新型コロナ蔓延、ロックダウン、金融市場暴落の中で、異次元の金融緩和を世界中で行っている。しかしここには当然大きな落とし穴があることも考えなければならない。
積み上がる借金はいつか必ず返さなければならない。そして積み上げる限度を超えた時、市場は紙幣に対して疑問を持つようになる。そしてその先に何があるのか?
インフレである。今回はハイパーインフレのあったソ連の当時の状況をまとめてみた。
ソ連のインフレの歴史
第一次大戦からロシア革命期、ロシア政府は1914年の開戦から1918年6月までに541億ルーブルの戦費を支出しており、これは1913年の経常歳出の17.6年分に相当するものであった。
これらは政府短期証券、国債、外債の発行などで賄われていたが、1917年10月革命で成立したソビエト政権は帝政ロシア時代に内外で発行された国債の債務放棄を宣言し国立銀行券の増発で歳費の調達を始めたため、ソ連では1913年物価水準に対して1924年2月には171億倍にまで増加した。1年平均で17億倍、1700億%のハイパーインフレが起こったのだ。
ソ連崩壊後のハイパーインフレ
ソ連崩壊後のロシアでは、政府による強制貯蓄制度の中止、中央政府の生産指令の停止、コメコン体制の崩壊による物資の不足、通貨ロシア・ルーブルの下落などによって経済が混乱し、ハイパーインフレが起きた。
1992年の物価上昇率は、前年比で26倍となった。1992年にインフレ率は2150%を記録したが、1996年にはIMFの融資・指導の結果インフレは収束した。当時の失業率に関しては、賃金未払いなどを合わせると2ケタを超えていたという意見もある。
物価上昇率は1993年には10倍、1994年には3.2倍と沈静化していった。
しかし、1998年のアジア通貨危機の影響を受け、外貨が大量に流出し財政が危機的状況となり、通貨切り下げと対外債務の支払いの延期を宣言、再び深刻なインフレに陥った。
LTCMの破綻
ロシアの経済混乱は各方面へ波及したが、ヘッジファンドに影響を及ぼしたこと、とりわけノーベル経済学賞受賞者が設立に関与したロングターム・キャピタル・マネジメント (LTCM) が破綻に瀕して銀行からの特別融資を受け、市場から消えたことが取り上げられる。
アメリカ合衆国における 1,000億ドル規模の巨大ヘッジファンドであった LTCMは市場中立型ファンドと呼ばれ、市況が一時的に変動しても、いずれ(数時間〜数日の範囲で)元の水準に戻るという性質を利用していた。
ロシア危機に際して、一時的にロシア関連の株が下落しても、いずれは元に戻るとしてポジションを取った。しかし、アジア通貨危機とロシア財政危機を経験した投資家は、一種の正常判断を失ったパニックにより安全な米国債等を指向して、ロシア市場に回帰することがなかった。
また、LTCM がポジションを取っていた中南米の株等もリスクが大きいとして下落し、結果長期間にわたって損失が拡大し、結局破綻に追い込まれた。
計画経済から市場経済での混乱
1989年、85年からソ連共産党書記長を務めていたゴルバチョフが、第二次世界大戦後から続いていたアメリカとの冷戦※に終止符を打った。
そして、同時に進められていた政治体制の改革、ペレストロイカによって、それまでの一党独裁制の計画経済から民主化の市場経済への移行が始まった。
しかし、それまでは中央政府が生産・分配・流通・金融を計画的に運営していたため、いきなり民間がその権利を手に入れても、どうしてよいのか分からず市場は混乱してしまった。
さらに、ソ連の主導のもと東ヨーロッパ諸国を中心に共産主義諸国の経済協力機構として結成されたコメコンが、冷戦終了とともに解散したことで、精算は大きく減少してしまった。
コメコン諸国は、各国が比較優位を持つ製品を集中的に生産し、貿易を通じて全体で最適な生産を行っていた。そのため、コメコン解散により各国との貿易が途絶えてしまうと、自国だけでは製品が思うように作れなくなってしまうのだ。
冷戦時に行われていた軍備拡張や民営化を促すための補助金の捻出によって財政は赤字が続いていた。そして、この不足分を中央銀行による国債引き受けで調達していたため、通貨供給量は過剰になり、インフレが加速することになった。
計画経済時は国営企業が各製品を独占的に供給していたため、その権利が民間の手に移ると、不当に価格を吊り上げて利益を得ようとする者が続出した。その結果、高い水準のインフレが発生していった。
商品を独占的に供給している場合、それが絶対欲しい人は、値段がいくらになってもそこから買うしかないため、売り手側は不当に価格を吊り上げて利益を拡大することができる。このため、市場経済を導入している各国は独占禁止法を定めている。
アフターコロナ、日本でもインフレが
日本は長くデフレが続いたが、新型コロナの国内流行が確認されたあと、マスク、トイレットペーパー、ティッシュペーパーなどが店頭からなくなってしまった。
目先の必要性、そして無いことからの不安により、高値でも買うことになりマスクの価格は上昇した。トイレットペーパーについても普段であればセールでしか買わないものを、定価であっても確保できれば買うことになり、一部の生活用品のインフレがアフターコロナでは進むことになった。
初めて職を失う
民営化の移行が進むにつれ、インフレの問題はより顕著になっていった。さらに、これまでの計画経済では、労働は国民の義務とされ、失業者はあまりいなかったのだが、民営化により経営困難に直面すると日常的に解雇が行われるようになった。
今まで職を失うということがなかったため、とうぜん雇用を支援するような市場も整っておらず、失業者は増加した。また、賃金上昇率が物価上昇率を大きく下回る状態が続き、企業に勤めている人も実質賃金の低下により生活が苦しくなっていった。
インフレが進み物の価格が上昇に対して給与の上昇が追いつかず、紙幣の価値はどんどん目減りしていくことになるのだ。
アフターコロナインフレに備える
歴史は必ず繰り返される。アフターコロナの時代、刷られすぎる紙幣の先に何があるのか? 紙幣の価値は継続的に下落を続けることになる。紙幣の価値の下落に負けない優良資産を分散して持つことが何よりも大切な防衛策になる。
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