政治混乱

米中通商合意と金融市場動向の関係とは?

米中通商合意

通商合意は大統領選の為なのか?

米中両国は1月15日に貿易交渉を巡る第1段階の合意に署名をした。

一部関税措置を取り下げるほか、中国は米国からモノとサービスの輸入を拡大させる事となり、1年半に及ぶ米中貿易戦争がようやく休戦に向かうこととなるわけだが、これには米中双方トップの思惑が見え隠れする。

関税率を15%から7.5%に引き下げ合意

両国は昨年12月の段階で第1段階の合意に至っており、米国は中国製の携帯電話端末、玩具、ラップトップコンピューターなどに対する関税発動を見送ると同時に、テレビや履物などを含む約1,200億ドルの中国製品に対する関税率を15%から7.5%に引き下げることで合意したが、第1段階の合意後も、2,500億ドルの中国製品に対する25%の関税措置は残るほか、中国も1,000億ドルを超える米製品に対する報復関税措置は取り下げてはいない。

トランプ大統領はホワイトハウスで中国の劉鶴副首相らと並び会見を行った。

その中で “ われわれは共に過去の過ちを正し、米国の労働者や農家に対し将来的な経済的な正義と安全をもたらす ”と述べている。

今回の合意では、中国が2年間にわたり追加的に少なくとも2,000億ドル相当の米国の農産品、モノ、サービスを輸入すると確約しており、2017年の1,860億ドルの輸入がベースラインとなっている。

ホワイトハウスが公表した文書によると、中国が示したコミットメントには540億ドルのエネルギー、780億ドルの工業製品、320億ドルの農産品、380億ドルのサービスの追加輸入が含まれている。

世界最大の養豚国家の中国では、トンコレラウイルスにより、この1年で1億匹を超える豚が減少し、価格高騰ていたが、今回の通商合意により、アメリカからの豚肉輸入が増加することで価格はある程度落ち着きを取り戻すのではないだろうか。

今回の合意事項の実施方法を巡る米中間の意見対立は、二国間協議を通じて今後解決していくことになる。この協議はまず事務レベルから始め、トップレベルまで段階的に行い、もし協議で決着しない場合は、関税を含めた制裁のプロセスに入る。

トランプ大統領の思惑は?

トランプ米大統領は、今回の合意による政治的な効果を最も理解している。

15日にホワイトハウスで行われた米中貿易協議の合意文書署名式には、今回の合意でメリットを享受する可能性がある、ボーイング社、カジノ業界の大立役者、投資会社ブラックストーンなどの首脳が勢ぞろいした。

実際の第1段階の合意内容は、長期的な枠組みというよりも、この秋の大統領選再戦のために行われているのではないだろうか?

合意によって経済見通しは改善する。今回の貿易戦争は、トランプ氏自身が生み出したとはいえ、これまで何カ月にもわたり高まっていた、貿易摩擦や関税を巡る緊張が緩むことになるからだ。

現在のアメリカ、トランプ政権においての経済面の問題の1つである貿易赤字にも対処できることになる。主に今回の合意でもほとんど撤廃されない輸入関税のおかげで、昨年11月の米貿易赤字は8%減少し、2019年全体でも6年ぶりの大幅な縮小が見込まれている。

中国政府は今後2年で米国の製品とサービスを2,000億ドル追加購入し、知的財産保護を強化すると約束したが、過去には同じような約束を果たさなかった。

中国が同意したのは、米国から航空機や自動車などの工業製品を含めて年間輸入を1,000億ドル拡大し、17年に比べて53%上積みするということだ。これは非現実的なほどの増加幅かもしれず、ブラジルなど他の貿易相手からの購入を相当減らさざるを得なくなる。当の劉鶴氏も、購入は市場の需要に基づいて行うとくぎを刺している。

今回の合意のタイミングは、トランプ氏にとって追い風となる。米議会上院はトランプ氏の弾劾裁判を開始しようとしており、トランプ陣営は11月の大統領選で再選を目指す運動を一段と活発化させており、格好の選挙のアピールとなった。

習近平体制にとっても御の字!!

中国元の価格はドルに対してここにきて堅調に推移しており、為替操作国からも除外された。

参考:中国の「為替操作国」認定解除から、この先の相場を読み解く

現在の中国は、国外では香港問題、台湾での親中派の選挙での敗北など問題も山積みし、習近平体制には焦りもあっただろう。

2020年の中国の経済リスクとは?

2020年の中国には幾つかの大きな経済リスク要因がある。

まずは、2019年までの減税によるカンフル剤効果が消えることがある。中国政府は19年の成長率が6%割れする事態を恐れ、18年10月と19年1月に所得税減税を実施し、経済を押し上げた。しかし20年はこの押し上げ効果がなくなる。

そして、自動車産業で大きな淘汰が起きる可能性が高い。電気自動車(EV)を対象とする補助金がなくなることになり、競争力で劣る地方の中小自動車メーカーで倒産が拡大する恐れがある。自動車産業は裾野が広いため、この影響が産業全体に広がる可能性も高く非常に大きなインパクトになる可能性も高い。

さらには、1月に入ってから新型コロナウィルスの影響による経済への打撃は大きなものとなるだろう。

習近平体制にとっても、今、アメリカと経済戦争を行っている余裕など実はなく、トランプ大統領に振り回される結果となっても、通商合意は再優先課題だったのだ。

今回の米中通商合意により、金融市場には追い風となり、まずは春先までは株式市場は堅調に推移し、ドル円も低いレンジの中で推移することになるのではないだろうか。

2020年の為替相場予測も下記から見てみて欲しい。

2020年ドル円
荒れる世界情勢に対して安定したドル円相場2020年に入り、思いもかけない要因から、結果的にドル円市場は波乱含みの年始スタートとなった。 1月3日に米国防総省がイランのソレ...