孫社長にとっての頭痛の種が次から次に表面化・・・
米携帯通信大手スプリントが27日発表した2019年10~12月期決算では、携帯電話の契約者が減少し、売上高が市場予想を下回った。同社は主要な米携帯電話事業者で最も規模が小さいが、契約者数の伸び自体はアナリスト予想を上回った。
月次契約者数は10-12月に49万4000人増加。一方、解約率は1.98%と、前年同期の1.85%から上昇した。アナリスト予想は契約者数が177,000人増、解約率は1.99%だった。
同社はTモバイルUSによる265億ドル規模の買収を巡り米裁判所の判断を待っている状況にあるが、状況次第によっては、ソフトバンクにとって大きな損失を出す案件となる可能性が高くなってきている。
ソフトバンクはスプリントの84%株式を保有しており、ソフトバンクではこの持ち分の評価を290億ドルとしている。しかし、同業大手TモバイルUSとの合併計画を巡り、スプリントの株式評価額はまもなく大幅な引き下げを強いられる可能性が高い。
ソフトバンクのウェブサイトに掲載されている説明によると、2018年4月のTモバイルUSとスプリントの合併合意に基づいてスプリントの企業価値を計算し、合意の合併比率はスプリント株1株に対しTモバイル株0.1株強で、米連邦当局は合併計画を承認した。
しかし、その後、ニューヨーク州などが米携帯電話大手TモバイルUSと同業スプリントの合併差し止めを求めて訴訟を起こし、15日には最終弁論が行われた。州政府は合併が消費者にとって値上げにつながると主張し、両社は積極的な競争で価格を下げると反論した。この判決がどのように下されるか?
ソフトバンクにはどちらにしても大きなリスクとなる。
スプリントの存続自体が危ぶまれる
もし、合併計画が頓挫すればスプリントは存続自体が危うくなりかねない。
スプリントは2018年以降四半期ベースでの赤字状態が続き、今年度だけでも11億ドルのキャッシュフローがマイナスになっている。既に債務は300億ドル以上あり、Tモバイルとの合併はスプリントにとって債務を返済できる唯一の確実な手段だと言える。
ソフトバンク自体、ウィーワークの失敗から、企業の資金救済に動く事はもうないと約束しているため、スプリント単体で追加資金を調達するには厳しい状況にある。
もし、合併が最終的に認められても、合併計画でのスプリントの企業価値が下方修正される公算が大きくなっている。当初の計画案は既に消えているが、それによるとTモバイル事業が現状のまま続くとの想定に基づき、スプリントの企業価値を590億ドル、過去1年間のEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)の5.2倍と見積っていた。
しかし、現状ではスプリントはライバルに顧客を奪われ、EBITDAは継続的に低下している。それに反してTモバイルは合併合意以降、業績が好調で株価は上昇している。
仮に当初計画案と同じ条件で計算するとスプリントの企業価値は690億ドル、過去1年間のEBITDAの6倍と見なされることになってしまう。
合理的に考えれば、更にはTモバイルの既存株主からの訴訟リスクを避けるという意味でも、Tモバイルは合併条件を見直してスプリント株1株に割り当てる自社株を減らすか、ソフトバンクに追加的な現金の支払いを求めてくる可能性が高い。
80億ドルの損失の可能性が・・・
両者の関係をみた場合、スプリントとしては絶対に計画をまとめる必要がある為、Tモバイルは優位な立場にある。EBITDAに基づく条件を見直すと、ソフトバンクが保有するスプリント株評価額は290億ドルではなく、210億ドルということになる。
ソフトバンクにとっては、企業価値を下げても、合併計画が実現することが最良の選択と言えるだろうが、それにより、ソフトバンクは損失処理を行わなければいけなくなりそうだ。
両社の合併は、2012年にソフトバンクがスプリントを買収したときから目論んでいた計画だった。当時からソフトバンクは、スプリントと共にTモバイルUSも買収、合併させることで、上位2社であるVerizonやAT&Tと対抗させようとしていた。
しかし、大手4社が3社になれば競争環境が停滞し、料金が高止まりするとして、規制当局が猛反発し、一度計画は頓挫している。
この時点でソフトバンクは、合併計画は諦め、スプリントを独自に立て直すべく、日本の携帯電話事業で成功したノウハウを注入しようと日本のソフトバンク社員をアメリカへ大量に赴任させた。しかし、日本のソフトバンク社員は現地のスタッフを全くコントロールできずに退散を余儀なくされたのだった。
その後、リストラでなんとかスプリントは持ちこたえていたが、ジリ貧なのは変わらなかった。そうして、2018年に再び、TモバイルUSとの合併を模索し始めたという経緯がある。
圧倒的な人材不足のソフトバンク
このあたりにもソフトバンクという企業体の一面が見えるのではないだろうか?
孫正義という圧倒的なカリスマで数々の成功を収めたソフトバンクの企業価値の殆どは孫正義そのものにある。
圧倒的な成長を目指す企業として、人材の成長が伴っていないのである。これはソフトバンクの投資家にとっても危惧しなければいけない点であろう。
今回、スプリントとTモバイルUSも合併ができたからといっても、けっして安泰というわけではない。
アメリカのキャリアは、すでにベライゾンが2017年にヤフーを45億ドルで買収し、AT&Tも2018年にタイムワーナーを買収しており、単なる通信回線の提供からメディアを巻き込んだ戦いにシフトしている。
新生TモバイルUSは、こうしたメディアを持ち合わせていないだけに、メディアを巻き込んだ総力戦となれば、ベライゾンやAT&Tに勝ち目はないのではないか。
ソフトバンクにとっての頭痛の種は大きく長く続くものになるかもしれない。
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