疫病の流行は不動産価格を大幅に下落させた
SARSが香港で流行した際には、香港の不動産市場は一時的なパニック売りに見舞われた。そして大きく遡る過去の歴史の中にも同様のことは記されている。14世紀にペストが欧州を襲った際、土地の価値が下落した史実が残されている。
感染症が流行すると土地の価格が下がる。歴史的に見て、格差や不平等が是正されるのはどのような時なのかをまとめた『暴力と不平等の人類史』の著者、米スタンフォード大学のウォルター・シャイデル教授の研究では、このような史実が明らかにされている。
シャイデル氏は、過去の歴史において不平等を是正するきっかけは「戦争」「革命」「国家の破綻」「感染症」であることを、様々な史料を駆使して説明している。
同氏によれば、14世紀に欧州全土にペストが広がった結果、耕作放棄地が増え、地価、地代が急落したという。農地を耕す農民が短期間のうちに大勢亡くなったため、実質賃金が上昇し、地主と農民の格差は是正されていった。
どれくらい土地の値段が下がったか、詳細な記録は残されていないが、欧州と同様に2~3世紀、エジプトでペストが流行した際、流行前と流行後の地代、すなわち借地料が50~60%下落したことを、残された当時の史料が明らかにしている。SARS蔓延時の香港では投げ売り不動産の価格は一時的に半値近くまで下がったものもあった。
REIT市場の混乱
新型コロナの感染拡大が不動産市場を揺さぶっている。不動産投資信託(REIT)の総合的な値動きを示す東証REIT指数は、2020年の年初から堅調に推移していたが、3月に暴落して節目となる2000ポイントを大幅に下回り、3月19日には1145まポイントまで45%近く下落をした。
現在(6月23日)は1685ポイントまで回復しているが、コロナ防疫の成否によっては予断を許さない状況が続くことになるだろう。テレワークの浸透が更に進めば、商業不動産需要そのものにも長期的な影響が出ることも懸念される。
アメリカの不動産市場はコロナでどうなっている?
5月の米中古住宅販売件数は市場予想以上に減少し、2010年10月以来の低水準となった。新型コロナのパンデミックを背景に、住宅需要も経済全体の流れに沿って低下した。
5月の販売件数は391万戸で、市場予想は409万戸だった。前年同月比では26.6%減少しており、現在のアメリカでの新型コロナの感染状況、高止まりする失業率をみると、しばらく住宅需要は停滞する可能性も高く、需給バランスが崩れれば、不動産価格下落要因となるだろう。
日本:首都圏マンション販売急減
首都圏で新規に販売されるマンションの数が減っている。3月も減ったが、4月はさらに大幅な減少となった。不動産経済研究所の発表によると、首都圏で4月に発売されたマンション戸数は686戸で、前年同月比で51.7%の減少となった。
3月と比べると68.0%の減少となり、これまで例をみないほどの落ち込みをみせている。外出自粛規制が行われ、ショールームの殆どが閉鎖されていたことの影響も大きいが、首都圏から地方への移住を選択する層も増える中で、高層マンションブームは終わりを告げることになるかもしれない。
中国不動産市場は改善傾向に
中国の不動産投資と不動産販売は5月にともに改善し、新型コロナ感染症の流行による不動産セクターへの影響が徐々に和らぐ中、勢いを維持していることをうかがわせた。北京では新たな感染の広がりも一部では起こっているが、中国全体としては完全に新型コロナ以前の落ち着きを取り戻しているようで、政府の金融支援政策がつづけば、行き場のないお金は不動産市場に戻ってくることになるだろう。
「中国不動産バブルがいよいよ崩壊か?」でも書いたが、中国不動産バブル崩壊リスクもあわせて理解してみて欲しい。
イギリスでは郊外への脱出希望が続く
イギリス、ロンドンの不動産会社では、問い合わせの8割が、ロンドン市内からの脱出を希望する人たちからだという。ロンドン市内に住むカップルや子持ちの家族が、郊外の庭付きの家に引っ越したいと希望するケースが多い。これまでロンドン市内の住宅は家賃が高いものの、オフィスへの通勤時間の短さや観劇の楽しみやすさなど様々なメリットがあった。
ところが、新型コロナの流行によりメリットが大幅に損なわれ、3密のリスクだけが高い。むしろ、郊外に比べて狭い住宅内で時間を過ごすことは苦痛となった。日本で起こっている地方移住ブームが各国でも同様に広がっているようである。
不動産価格は今後どうなるのか?
首都圏の不動産価格に関しては2つの力が働き、価格を変化させるだろう。今後はデベロッパーの寡占が進み、大手不動産デベロッパーは、景気が悪くなっても、大幅に減額してまで売り急ぐ必要がなく、物件の売れ行きが悪くなっても、新築物件の価格はすぐには下落しないことが考えられる。
しかしもう一つの働く力としては、ここ数年の景気回復を背景とした、雇用や所得の環境改善が止まる可能性があることだ。雇用や所得の環境改善は、家計が使える住宅取得の予算を増やし、新築マンションや中古マンションの価格を上昇させてきた。
コロナによる景気悪化で、妻のパート先が見つからなかったり、派遣で登録されても行き先がなくなったりすれば、住宅の取得予算は伸びなくなる。多くの人が買いたくても買うことができないという状況になれば、大手デベロッパーも物件価格の見直しを行わざるを得なくなる。
テレワークで地方、郊外への移住が加速
テレワークが広がることで、近くて狭い都心に住むという選択から、地方、郊外への移住の流れも浸透する中で、人それぞれのライフスタイルに刺さる商品を提供する方向へ、商品設計の在り方も見直されることになるだろう。
過剰流動性資金が不動産市場に早々に入り不動産価格を上昇させるとは考えないほうが良い。根本には日本の人口の継続的な減少という問題もある。
今を良い機会と考え、じっくり焦らず落ち着いて、自分のライフスタイルに合わせた住宅選びをするには本当によい機会となっていると捉えてみよう。
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