コロナによるインバウンドの苦境
新型コロナの感染者は特に新興国、途上国での感染拡大が酷くなっている。インバウンドビジネスに対しての影響は、当初考えているよりもずっと厳しい状況になることを覚悟する必要がある。
アベノミクスでは、2020年に4,000万人のインバウンド旅行者を受け入れるという掛け声の中、国のインフラ整備、関係企業の投資も続いた。そしてここにきて、新型コロナの感染拡大によるホテル事業者の経営破綻が増え始めている。
訪日外国人や東京五輪を狙って、新規参入や開業が相次いでいたところに宿泊需要の殆どが蒸発してしまった。それによりホテル、旅館の資金繰りに行き詰まっている。エアビーアンドビーの売上落込みも酷いことから、財務基盤の弱い民泊事業者は更に酷い状況にあることも考えられる。
国の支援策だけでは雀の涙
国も矢継ぎ早の対応をしているが、助成金だけではとても何処も間に合わない。特別融資枠で無担保無保証人での貸付もしているが、借り入れを増やしても借金が増えるわけだから返済の必要がある。インバウンド旅行客が落ち込み、長期間の需要低迷となると、借り入れすること自体が焼け石に水となる可能性も高い。
ホテル業界には投資ファンドからも資金が大量に流入しているため、コロナ関連での破綻が広がれば、オーナーによる物件売却など、不動産市場に影響がでる可能性も高い。そしてこれにより商業物件の価格下落につながる恐れがある。恵比寿のウエスティンホテルはコロナ流行前に高値で外資ファンド間で転売されたが、高値づかみの形となってはいないだろうか。
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ホテルの破綻が続出
東京商工リサーチによると新型コロナ関連の宿泊業の経営破綻は5月8日時点で29件となっている。これは業種別では最多となる。4月24日にはカプセルホテル運営のファーストキャビンが、同27日にはWBFホテル&リゾーツが経営破綻した。そして実はこれは企業としての突然死ではないのだ。
足元で経営が行き詰まっているのは、コロナ以前から財務が悪化していた企業が目立っている。2009年設立のWBFは、北海道と関西を中心に約30施設を運営している。事業拡大に積極的で、ホテル開発などに充てるために、銀行借り入れを増やしていた。
両社をはじめ新興勢力が積極的に施設数を増やしていた背景にはインバウンド需要の拡大がある。ビザ緩和などの政策で、インバウンドは19年まで8年連続で増加し、6年で3倍となっていた。今年夏に予定されていた東京五輪もあり、宿泊需要が増えるとの算段があった。
マイナス金利の悪影響がここにも
ホテルの建設ラッシュを後押ししたのが、長引く低金利で運用難となっていた投資マネーなのだ。株や債券以外の投資先として不動産に資金が流入、さらにホテルはオフィスビルやマンションよりも高い収益が見込めるとされていた。
不動産会社やファンドがホテルを開発して、運営会社に貸し出すと、運営会社は手元資金が少なくても出店の速度を上げることができた。不動産会社やファンドなど施設オーナーにとっては運営の手間をかけず、安定した賃料収入が得られるメリットもあって、両者がタッグを組みバブルの様相を呈していた。
マイナス金利は大失敗
最近では、都市部で売りに出た土地を、ホテルの開発計画を持つ不動産会社が競り落とすことが目立っていた。ホテルの急増が、オフィス空室率の歴史的な低水準や、マンションの販売価格上昇を招いたとの指摘もある。それが今回の新型コロナによる需要蒸発で、窮地に立たされることになったわけだ。
WBFの経営破綻では、上場不動産投資信託(REIT)のスターアジア不動産投資法人や投資法人みらいが、WBFに施設を賃貸していたと開示した。中堅不動産のタカラレーベンは2月に京都市内でWBFのホテルを開業したばかりだった。
東急リバブルはWBFへの賃貸を目的に関西国際空港近くで大型ホテルを開発中で、7月に完成予定だった。今回の破綻により、それぞれの企業への業績の影響も心配される。
上場REAT かなり価格は下がったが・・・
不動産証券化協会(ARES)によると、上場REITが保有するホテルは約1兆6千億円と、3年間で約7割増えた。私募REITや不動産ファンドを合わせるとさらに膨らむ。緊急事態宣言が延長され、宿泊需要の回復は不透明感が漂う。新興国、途上国では感染拡大が続くなか、インバウンド旅行客が急激に戻ることは全く期待できない。
政府は企業支援策を打ち出しているが、体制にあわない急拡大など、無謀な経営をしていたところも目立ち、事業者の選別も必要だとの声もある。
今後、ホテル運営会社の経営破綻が広がり、賃料収入が減ると、不動産オーナーも借入金返済が滞り、場合によっては物件を投げ売りする恐れもある。不動産価格の下落でファンドの資産価値が目減りし、投資家がファンドから資金を引き揚げるといった悪循環に陥りかねない。
インバウンド顧客急増にあわせ急速に、積極的に事業展開を行った新興企業が、今後同様に破綻が続く恐れがある。そして昔からの名旅館と言われるようなところも、機動的な業態変化ができない可能性が高く、同様に惜しまれつつ閉めるという形が続くことも予想される。
地方創生にとっても完全に逆流とはなるが、テレワークが進むことで、地方居住を選択する人もどんどんこれからでてくることも予想される。アフターコロナの時代、ホテルや旅館なども、新しい活用方法を考える機会にあるといえるのではないだろうか。
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