政治混乱

ダブルのショックがベネズエラを襲っている

国民の窮乏生活は一層悲惨に

ベネズエラで新型コロナの感染者が最初に確認されたのが3月13日。そして4月23日時点で感染者数は公式には311人とされている。しかし、国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)の専門家は「実際の感染者ははるかに多く、感染が爆発的に増える恐れがある」と懸念する。

ベネズエラ情勢に詳しい米紙「マイアミ・ヘラルド」は中南米専門家の話を引用、ベネズエラの多くの病院では長年、設備投資が不十分な上、医薬品や医療器材が慢性的に不足し、医師も大量に移住しているため、新型コロナによって極めて深刻な危機に陥りうる“最有力候補”国であると報じている。

なぜベネズエラはここまで厳しい状況に陥っているのか?

世界屈指の原油埋蔵量を誇るベネズエラは、原油が輸出全体の9割を占めていたが、2015年に原油価格が急落するとベネズエラ経済が危機に陥った。2015年のインフレーション率は98.3%、2016年のインフレ率は700%に達した。2008年から2016年までのボリバル・ソベラノ累積インフレ率は2,000%を超えている。

2018年7月23日国際通貨基金は、2018年末にボリバル・ソベラノのインフレ率が100万%に達する旨の見解を発表した。

先の見えない経済と治安の混乱で国民生活は疲弊し、2019年6月時点で400万人以上が、国境を越えて南アメリカ各国(コロンビア:約130万人、ペルー:76.8万人、チリ:28.8万人、エクアドル:26.3万人、アルゼンチン:13万人、ブラジル:16.8万人)へ流出したと推測されている。

チャンスを逃してしまったベネズエラ

チリ、ペルー、コロンビア、メキシコといった主要ラテンアメリカ諸国は1980年代から推し進めた構造改革が1990年代に実り始めた。その後何度か襲ってきた世界経済の減速にも耐えて、次の安定期にさらなる成長を遂げるという正のループに入り現在に至るが、ベネズエラは1990年代に到来したチャンスを逃してしまった。

まず、1990年代に入ると他のラテンアメリカ諸国と同様にベネズエラの経済成長も復活して、構造改革を一層進めるチャンスがあった。しかしながら、ベネズエラはクーデター未遂が複数回起きたり、大統領の弾劾が行われるなどの政治のごたごたを繰り返し、絶好の機会を逃してしまうのである。

1994年にはベネズエラは大手銀行が倒産してしまうなど、他のラテンアメリカ諸国が力を蓄えた1990年代を無駄にすごしてしまった。そして、20世紀末から21世紀初頭の世界的な経済混乱期を迎えたベネズエラ経済は、さらに力強さを失っていくことになる。

反米路線で裏目に

1999年には反米、社会主義路線をとるウゴ・チャベスが大統領に就任した。 就任から最初の数年間は通貨の暴落など経済の混乱が激しく、2003年にはGDPがたった4ヶ月で25%も下落した。さらに多くの企業が倒産して、失業率もこの時18%にまで達している。

ただし、2004年以降は石油輸出しかほぼ外貨を稼ぐ手段のないベネズエラ経済にとって原油価格の高騰が追い風となり、経済は落ち着きを取り戻すことになる。

2004~2008年の5年間の平均実質GDP成長率は約10%、失業率もリーマンショック直前には7%台にまで下がり、貧富の差の縮小も見られた。しかし2008年に米国を震源地としたリーマンショックが起きると、またベネズエラ経済は本格的な混乱期に入る。

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ダブルのショックがベネズエラを襲う

リーマンショックが起き石油価格が乱高下することになった。リーマンショック直前に130ドルに迫る勢いだった石油価格は2008年末には30ドル近くにまで暴落し、石油の輸出に頼り切りのベネズエラ経済は大打撃を受ける。

石油価格自体は2010年に回復するのだが、それまでにすでに金融政策の失敗で混乱に拍車がかかったベネズエラ経済は全く回復せず、ベネズエラ政府は通貨の切り下げを行う。翌2011年にも実質的に通貨は切り下げられ、それにより一時的に政府が財政支出を増やすことができた。また原油価格の高止まりを主な原因として、ようやくベネズエラ経済は一時的な安定を取り戻した。

しかしこれら一連の状況と政策が、資本の海外逃避と通貨の下落期待を引き起こすことになる。それによる輸入物価上昇を通じたインフレ期待により、2012年には通貨ボリバルの下落が止まらなくなった。そして、2013年からベネズエラ経済はハイパーインフレに向けた最終章に入る。

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そして、ハイパーインフレへ

2013年は輸入物価上昇を通じたインフレ率の上昇が本格化し、それまでなんとか20%台を保っていたインフレ率がこの年50%台まで上昇する。そして、石油輸出一本に頼るベネズエラ経済にとどめをさしたのが、2014年からのシェールショックである。2014年半ばまで100ドル超だった原油価格は、2016年初頭に一時30ドルを切るところまで下落を続けた。

すでに政府が2012年時点で外貨準備をほぼ使い果たしていた中で、ベネズエラの国際収支は大幅に悪化した。2015年には大手格付け会社が相次いでベネズエラ政府債務の信用格付を格下げし、2016年の秋頃からボリバルの下落スピードが急加速する。その後3年間インフレ率は上昇し続け、もはや正確なインフレ率がどれくらいなのかも誰も分からなくなってしまった。

アフターコロナのベネズエラ

ベネズエラでの新型コロナ感染拡大と時を同じくして、米トランプ政権がマドゥロ政権退陣に向けた方策を矢継ぎ早に打ち出している。

ベネズエラ原油生産は米制裁の強化に原油価格急落が加わり大幅に低下しているが、今回の措置によって一層減少するのは必至で、マドゥロ政権にとっては大きな痛手となろう。

さらにはマドゥロ政権内で軍人や官僚の忠誠心が崩れ始めており、彼らの一部は水面下で反政府勢力との妥協策を探っている。ベネズエラ情勢をめぐり再び、内外の動きが活発化してきたのは間違いないようだ。

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チャーリーTAKA
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日本を代表する投資家兼実業家でもあり、グローバル・チーフ・ストラテジストとして活躍中。
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