資金はドルから中国元へ
米大統領選の結果がどうなろうと、米国の財政赤字はさらに膨らみ、国債の発行は一段と増える見通しです。米国債をオーバーウエートとしている世界の投資家が、今後はこれを分散する過程で中国投資の比重を高めることになるでしょう。
米国債よりも金利も高い中国の国債への投資を選択し、人民元には資本流入という追い風が吹くことが今後予想されます。
金利差が有利に働く
中国は世界の先進国に比較して成長率が継続的に高く続くことが予想されます。そして国債金利も他の先進国と比較して圧倒的に高いです。
これにより中国への資金流入は、人民元が歩む準備通貨への道を現在想定されているより短くし、世界の通貨覇権構図においてゆっくりと進んでいる変化が加速する可能性があると考えるべきでしょう。既にデジタル人民元も具体的に進められていますし、あっという間にこれは訪れるのかもしれません。
香港は金の卵を産むガチョウ
米中新冷戦の主戦場は国際金融センター香港です。2020年6月末、中国の習近平政権が香港の政治、表現の自由を制限する「香港国家安全維持法(国安法)」施行を強行しました。
それに対し、トランプ米大統領は7月14日、「香港自治法」案に署名、発効させ、対中金融制裁を発動できるようにした。基軸通貨ドルを武器に、ピンポイントで中国の党幹部や金融機関を狙い撃ちにしています。
さらには、香港自治法は国安法を振りかざす党幹部、組織に対して、資産凍結やビザ(査証)発給停止などの制裁を科すばかりでなく、香港抑圧に加担する金融機関に対しては、中国系、外資を問わず、米金融機関からのドル融通を禁じています。米国が金融制裁に重点を置く理由は、中国の通貨制度は実質的な意味でドル本位制であり、それを支えてきたのが国際金融センター香港であるという歴史的背景抜きには語れません。
中国人民銀行は流入する米ドルを原則としてすべて買い上げ、人民元資金を発行しています。中国本土から香港に人民元を持ち込めば、米ドルにペッグされた香港ドルを介して、米ドルと自由に換えることができます。
中国にとって香港は紙切れの通貨、人民元を価値ある米ドルに転換できる錬金術センターであり、金の卵を産むガチョウにも例えられています。
人民元の国際取引の7割以上は香港に集中
上海金融市場が発展してきた今でも、人民元の国際取引の7割以上は香港市場に集中しています。中国本土への外国企業直接投資の6割以上は香港経由です。
中国銀行など中国の国有商業銀行は海外との取引の大半を、香港から主に米ドル建てで行っています。外資の対中進出拠点はあくまでも香港なのです。アメリカは香港をなんとかして金融面で押さえ込もうとしても、中国優勢の流れは変わりません。
アント株が大人気化、時価総額は約3150億ドル
新規株式公開(IPO)を進めている中国のフィンテック大手アント・グループの株式に対し、機関投資家はグレーマーケットで50%のプレミアムを払って購入しています。予定されている史上最大規模のIPO後の取引初日では株価の急上昇が予想されています。
詳しくは、「アリババ・グループのアントのIPOに注目」の記事もご覧ください。
一部の機関投資家は2日のグレーマーケットでアント株を1株当たり120香港ドルで取引しました。IPO価格は80香港ドルです。アリババグループ傘下のアントは香港、上海両市場で5日に上場します。これまでに少なくとも3兆米ドル(約314兆円)相当の応募がありました。
香港でのIPOは機関投資家からの注文が殺到したため、応募の締め切りを予定よりも1日早めました。届け出に基づくと、アントは上海と香港でのIPOを通じ計約345億ドルを調達する計画で、時価総額は約3150億ドルと、米銀JPモルガン・チェースを上回り、ゴールドマン・サックス・グループの4倍となります。
習政権が金融大手を香港に誘い込む甘い汁
習政権が日米欧資本を引きつける決め手とするのが、西側資本の利益至上主義につけ込むことです。習政権が国安法を準備し始めたのは、香港で民主化要求デモが燃え上がっていた昨年夏でした。ちょうど同時期に、米国政府と議会が米市場に上場している中国企業の不透明な財務内容を厳しくチェックし始め、上場基準の緩い香港市場に重複上場する必要性に迫られていました。
香港市場に上場する中国企業は19年6月で1197社、時価総額シェアは68%でしたが、10月から上場数、時価総額シェアとも急増し始め、20年7月には1285社、79%となりました。上海、深圳の証券市場と香港市場の間では、人民元建てで株式の売買が相互取引できる「ストックコネクト」という仕組みがあり、7月からは中国化された香港市場に殺到し、香港株価が急上昇しました。
香港に拠点を持つ英国の大手金融資本、HSBCは国安法支持を表明し、モルガンスタンレーなど、ウォール街の金融大手は中国企業新規上場の幹事引き受けや中国企業株売買仲介に血眼になっています。香港株の上昇は習政権の格好の宣伝材料でもあります。
国安法によって情報の自由が奪われる香港市場に対する国際社会の不安に対し、香港は安全になる。さらにこれからも有望な中国の成長企業が香港市場に続々と上場するので、もっと安心できる投資機会となると世界の世論を信じ込ませています。
様々な角度から考えて中国が有利な展開
中国に嫌悪感を持つ人も日本人に多いのは確かですが、投資家としては全体を俯瞰する冷静な判断が必要です。ジャブジャブ刷られ続け、ほとんど利息もつかないアメリカドル。
それに対して成長戦略が見え、実際にコロナから回復し、高い利息もつく中国元。
さらには着々と進められる香港の金融都市としての魅力化、さらにはデジタル人民元。
トランプにより分断されたアメリカは、とてつもなく高い代償をこの4年の間に払ってしまったように思えます。
暗号通貨、ビットコインにとっては全体として追い風だと考えますが、米ドル、日本円での投資が偏っている場合、そこからの分散を考えるべきかと思いますね。
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