政治混乱

世界の労働環境悪化が招く暴動・デモ

国際労働機関(ILO)は今年1月、世界の労働環境に関する最新の報告書を発表した。それによると、世界経済が減速する中、2019年の世界全体での失業者数が1億8800万人(失業率は5.4%)に上り、十分な労働時間を与えられない人、仕事を見つけられない人を合算すると4億7000万人あまりに上ると明らかにした。

世界の労働人口の2割は1日の収入は3ドル

また、世界の労働人口の2割(約6億3000万人)の1日収入は3ドルにも満たず、若者の豊かな暮らしや安定的な雇用がいっそう難しくなってきていると警告した。

イランでも反政府デモが激化

昨年、世界では各地で若者たちによる抗議デモが発生した。例えば、去年11月中旬以降、イランでは政府によるガソリン価格の50%値上げ決定に端を発し、各地で若者らによる反政府デモが激化した。

抗議デモは首都テヘランを中心に各地に広がり、デモ隊は各地のガソリンスタンドや銀行などを次々と襲撃し、その一部は治安当局と激しく衝突するなどし、これまでの死者は300人以上、1000人以上が逮捕されたともいわれる。

チリでも抗議デモが拡大

南米チリでも去年10月下旬以降、政府による地下鉄賃上げ決定に反対する若者らの抗議デモが首都サンティアゴをはじめ各地に拡大した。若者の一部は略奪行為や建物を放火し、治安当局と衝突した。1990年の民政復帰以来、最悪の暴動になっており、死者は20人以上、負傷者は1万3500人以上に上ったという。

こういったデモや暴動は、イランやチリだけでなく、去年も香港やフランス、イラクやレバノンなど各地で発生し、現在事態は落ち着いたものの、いつどこで再び激化しても全く不思議ではなく、若者たちの不満や怒りは収まっていない。要はいつ導火線に火がつくかである。

コロナで世界恐慌以降で最悪の経済危機が起こる

そして、今我々が考えないといけないのは、このILOの発表や各地で発生した暴動・デモは、コロナ危機以前の話である。国際通貨基金(IMF)は4月、新型コロナの影響で、2020年の世界経済の成長率が急激なマイナスとなり、1930年代の世界恐慌以降で最悪の経済危機に直面するとの見通しを示した。

また、昨今米国で黒人男性が白人警察官に窒息死させられたことがきっかけで、抗議デモが米国や欧州など各地に広がった。これは人種差別的な問題だが、その背景に経済格差や失業などがあることは想像に難くない。抗議デモには多くの白人の若者も参加している。

新型コロナウイルスの感染拡大が、各国の経済や雇用にどの程度ダメージを与えたかはまだ分からない部分も多いが、ILOの発表を超える疲弊というものが各国から現れる可能性がある。

世界では自国第一主義が色濃くなっている

また、今後アジアやアフリカの発展途上国を中心に人口が激増するなか、現地ではそれに見合うだけの雇用が生まれるのだろうか。

実際、それは極めて困難で、地球温暖化や資源獲得競争も影響し、労働環境の悪化がデモや暴動、テロをさらに誘発してしまう恐れがある。

トランプ政権にも象徴されるように、世界では国際協調主義や大国のリーダーシップというものは陰を薄め、自国第一主義が色濃くなっている。

地球温暖化における米中の対応もそうであるし、労働環境の悪化というものが暴動やデモ、それがもっと悪化してテロやクーデターなどを誘発し、各国の経済に大きな被害をもたらすリスクがある。

労働環境悪化によるデモや暴動は、現地に滞在する駐在員や出張者にとっては極めて身近なリスクである。今後いっそう、労働環境と安全との関係性を注視していく必要があろう。

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サントロペ
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国際政治学者、大学教員でありながら、実務家として安全保障・地政学リスクのコンサルティング業務に従事する。また、テレビや新聞などメディアでも日々解説や執筆などを積極的に行う。
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