恐慌特集

債権バブル崩壊リスク、ギリシャ危機を思い出せ

ギリシャでさえマイナス金利?

新型コロナウイルスの広がりによる経済成長下落、世界の金融当局のハト派姿勢継続の思惑から、マイナス利回り債権が2月初旬の数日で300兆円近く膨らみ、1,500兆円を超える規模となっている。

オーストリアが1月末に発行した10年物のマイナス国債には発行額の10倍以上の募集があった。そして、ユーロ危機当時には国際金融支援を仰いだギリシアでさえ、マイナス金利の発行を同様に行っている。

2009年、金融危機のあったギリシャでは2012年には国債金利は一時的に30%を超える水準にもなった。ギリシアの経済及び金融情勢が過去と比べて圧倒的に良くなったかといえば全くそれは違い、混乱は現在も続いている。

改めて今のタイミングでギリシャ危機を理解する必要がある。

ギリシャ危機とは

ギリシャ危機は、ギリシャ共和国の2009年10月の政権交代を機に、財政赤字が公表数字よりも大幅に膨らむことを明かしたことに始まる一連の経済危機をいう。

従来、ギリシャの財政赤字はGDP比で5%程度とされていたが、新政権(全ギリシャ社会主義運動)下で旧政権(新民主主義党)が行ってきた財政赤字の隠蔽が明らかになり、実際は13.6%に達していたことが分かった。

当時のギリシャでは、公務員の数が労働人口の4分の1もの割合を占めている状況であった。また年金制度についても、55歳頃からの早期受給が可能であり、所得代替率(リタイア前の給与に対する割合)が90%を超えているなど、かなり恵まれた仕組みになっていた。(所得代替率はドイツの約2倍、日本の約3倍にも相当する。)

事の発端は、2009年10月の新民主主義党(穏健派・中道右派)から全ギリシャ社会主義運動(左派)への政権交代だった。これを機に、旧政権により財政赤字が隠蔽されていたことが明らかになった。

この為、新政権(パパンドレウ氏)から財政健全化計画が発表されたが、経済成長率などの点において楽観的な内容だった為、ギリシャ国債が格下げされることとなった。同時に、同国への融資額が大きいドイツ国債の価格や通貨ユーロが下落し、ギリシャと同じように財政赤字の大きいイタリアやスペインなどの南欧諸国の国債価格も下落した。

当時、財政に不安のあるこれらの国の頭文字を取ってPIIGS(ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペイン)という言葉も話題になった。これに対しIMF(国際通貨基金)やEU(欧州連合)は金融支援を決定したものの、その条件としてギリシャに増税・年金改革・公務員改革・公共投資削減・公益事業民営化など、厳しい緊縮財政・構造改革を求めた。

ギリシャはこの条件を受け入れ、財政健全化を進めたが、国民負担も大きく、景気も大きく落ち込む結果につながった。法案の議会通過に際しては、大規模なデモや暴動が頻発するなど、その過程は簡単なものではなかったが、各国の協力もありギリシャは危機を乗り越え、2014年にはパパデモス政権のもと実質GDP成長率もプラスに転じた。

しかしながら、国民は負担増に耐えられなくなっており、2015年の総選挙において急進左派連合(SYRIZA)のチプラス氏が政権を奪取した。同政権はポピュリスト政党、すなわち一般大衆の支持のもと体制側や知識人に批判的な政党であり、反緊縮や既存政治の刷新を訴え民意を得た。

その後、同政権も早々にEUとの交渉に行き詰まった為、公約に反し年金カットや増税などの緊縮財政を実施した。この結果、2018年8月、全ての金融支援プログラムを終了させたが代償は大きく、同政権は国民の支持を失い、2019年7月、総選挙により新民主主義党が勝利し、約4年半ぶりに政権交代が実現した。

ギリシャ危機の問題点は?

ギリシャは、ユーロ圏の中で経済規模が3%にも満たない小国だが、ギリシャ危機が世界を大きく揺るがすようになったのは、ギリシャがユーロの一員であり、その危機がユーロ加盟各国のソブリン債に飛び火し、より大きな欧州債務危機となったからである。

また、ギリシャ経済がEUと対立するロシアと地理的に近いことから、ギリシャを孤立させることは、EUに地政学リスクを生じさせることにもなった為、そのリスクを世界経済は敏感に察知し、ギリシア危機はより大きなリスクとして捉えられた。

ギリシャ危機の推移
・2009年10月:ギリシャの財政赤字の隠匿が判明
・2010年01月:欧州委員会が統計不備を指摘、ギリシャ国債格下げ
・2010年04月:ギリシャの財政赤字を13.6%に修正
・2010年05月:ギリシャへの第一次支援策決定
・2011年10月:ギリシャ政府が財政赤字削減目標の未達を発表
・2011年11月:ギリシャ首相の国民投票発言で国内外が反発
・2012年02月:ギリシャへの第ニ次支援策決定
・2012年05月:ギリシャ総選挙で連立協議失敗、ユーロ離脱懸念
・2012年06月:ギリシャ再選挙で連立政権発足
・2014年12月:議会で大統領を選出できず、総選挙実施へ
・2015年02月:反緊縮派の急進左派連合が勝利、支援4カ月延長合意
・2015年06月:IMFの借入を延滞、EUの第ニ次支援終了
・2015年08月:ギリシャへの第三次支援策決定
・2017年06月:ギリシャへの追加融資で合意、財政危機回避
・2018年08月:第三次金融支援プログラム終了(8年ぶり支援脱却)
・2019年09月:資本規制を全面解除

現在のギリシャは政治、経済とも安定しているとは、とても言えない状態にあり、そのようなギリシャでさえマイナス金利を発行できるというのは異常としか言いようがない。

金余りによる債権バブル崩壊リスクも、いよいよ最終局面が近いのではないだろうか。

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