政治混乱

国家安全維持法を巡って中国が強気でいられる理由

北京政府が香港に対する国家安全維持法を可決し、米国や英国など欧米諸国から非難の声が高まる中、先月30日、スイス・ジュネーブで第44回国連人権理事会が開催された。

同理事会の席で、キューバの代表団は、

国家の安全を維持するための立法権は国家にあり、それは国連憲章上の基本原則である。香港国家安全維持法は人権問題ではないため、ここで議論すべき問題ではない。同法は一国二制度を保つため、そして香港の長期的繁栄に役立つ

との考えを表明した。

国家安全維持法に賛成は52ヵ国、反対派27ヵ国のみ

同会合で、国家安全維持法に懸念を表明したのは、日本、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、デンマーク、フランス、アイルランド、ドイツ、マーシャル諸島、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、パラオ、スウェーデン、スイス、イギリスなど27カ国だった。

要は、アジア1国、台湾と外交関係を維持する南太平洋の2カ国、そしてあとは欧米諸国だ。ちなみにトランプ政権は2018年に人権理事会から脱退しており、米国は今回カウントされていない。

一方、注目すべきは中国を擁護する立場に回った国々だ。それらは、バーレーン、ベラルーシ、カンボジア、カメルーン、中央アフリカ、キューバ、ドミニカ、エジプト、赤道ギニア、イラン、イラク、クウェート、ラオス、モーリタニア、モロッコ、モザンビーク、ミャンマー、ネパール、北朝鮮、オマーン、パキスタン、パプアニューギニア、サウジアラビア、ソマリア、スリランカ、スーダン、シリア、UAE、ベネズエラ、ザンビア、ジンバブエなど53カ国に及ぶ。

52ヵ国が国家安全維持法を支持する立場に回った理由とは?

中国を除く52カ国は、なぜ国家安全維持法を支持する立場に回ったのか。そこには、大きく2つの背景が考える。

独裁的、権威主義的、また国内に反政府勢力の問題を抱える国

まず1つ目が、独裁的、権威主義的、また国内に反政府勢力の問題を抱える国々である。バーレーン、エジプト、イラン、イラク、パキスタン、シリア、サウジアラビアなどは国家権力が強く、イスラム過激派などの問題を抱えている。

ウイグルやチベットの問題を抱える中国と状況は似ており、特にエジプトやシリア、パキスタンなど深刻なイスラム過激派の問題を抱えている国々は、ウイグルのイスラム過激派問題との関連上、中国のウイグル族への弾圧については北京を非難しない立場に回る。

中国による莫大な資金援助「一帯一路」

そしてもう1つが、一帯一路である。例えば、カメルーン、エジプト、モザンビーク、ミャンマー、ネパール、パキスタン、ラオス、パプアニューギニア、スリランカ、サンビア、ジンバブエなどのアジア・アフリカ諸国は、中国の一帯一路による莫大な資金援助を受け、国内でインフラ整備や都市化を押し進めている。

中国のやり方は債務帝国主義と呼ばれることもあるが、こういった国々としては、中国支援の立場をとらないと資金の減額もしくは停止に遭う恐れもあり、そこには政治的圧力も強く掛かっている。

欧米の力の衰退と世界の多極化が加速中

一方、今回の状況を見ると、欧米の力の衰退と世界の多極化がいっそう進んでいることを想像させる。世界経済に占める先進国のシェアが縮小するなか、経済を基軸とする中国の影響力はアジアやアフリカの発展途上国に広く浸透している。

当然ながら、行き過ぎた浸透は地元からの抵抗や反発を生むことは間違いなく、一部の国々からは反一帯一路の声も聞かれる。

しかし、今回の国家安全維持法を巡る各国の反応は、中国が対立する欧米諸国と向き合う上で大きな擁護となるだけでなく、世界経済を巡る米中対立をいっそう激化させる材料になる。

世界経済の行方を見ていく上では、こういったパワーバランスの変化を注視する必要がある。

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国際政治学者、大学教員でありながら、実務家として安全保障・地政学リスクのコンサルティング業務に従事する。また、テレビや新聞などメディアでも日々解説や執筆などを積極的に行う。
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