経済ビジネス

カルロスゴーンが逃亡したレバノンは安住の地となりえるか?

カルロスゴーン

※写真:AbemaNews

カルロス・ゴーンの逃亡費用は合計31億円

元日産自動車会長、カルロスゴーン被告の逃亡は非常に高いコストとなった。日本からレバノンに逃れたために保釈金15億円は没収され、昨年末の日本脱出のためのコストは16億円かそれ以上がかかったとみられている。

日本脱出のためのコストの内訳は、プライベートジェット機のチャーター代金35万ドルのほか、半年がかりで作戦計画を立てた最大25人の多国籍チームへの支払いもある。

カルロスゴーンの推定資産は?

カルロスゴーン氏が如何に富裕層であっても、この費用が総資産に与えた影響は大きく、ゴーン被告の資産は約1年前に逮捕されて以降で約40%目減りしたと見られる。資産額は現在約7,000万ドルと、約1年前の1億2,000万ドル前後から大きく減少している。

逮捕・起訴が続いたゴーン被告は既に、入る予定だった巨額の収入も失っている。日産自動車は昨年、同被告への退職金や株式関連報酬を取りやめ、フランスのルノーも2015年の競業禁止契約に基づく支払いはしないとしている。同被告に対する罪状の多くは退職金に関連しており、計1億4,000万ドル余りが受け取れなくなりそうだ。

それに対して、ゴーン被告は、ルノーに対して年金25万ユーロの支払いを求める訴えを仏労働裁判所に起こしている。2018年に逮捕されて以降に受給資格を失った資金を取り戻すため、複数の裁判を起こす方針を示しており、裁判所に今月提訴する予定の別の裁判では、年額77万ユーロ相当の年金と、職務にとどまっていれば受給できていた株式1,550万ユーロ相当の支払いも求める。

カルロスゴーンの自宅は?

日産もゴーン被告に対しての資金回収の法的措置をレバノンで検討している。同社はベイルートの豪邸からの被告退去を試みている。この物件は日産が875万ドルを支払って購入、同被告のために改装したことを理由にしている。

失業率25%のレバノンで月1,000ドルで生活を?

現在のレバノンは政治経済とも混沌とした状況が長期間続いている。レバノンで若年層の失業率は25%に上るとされ、通貨下落やインフレとも相まって、一般市民の生活は苦しさを増している。その一方で富裕層は、ゴーン被告のように複数の国籍を使い分け、海外に資産を移していることも珍しくなく、レバノンでも経済の二極化が大きく起こっている。

レバノンでは昨年10月、デモの激化を受けて当時のハリリ首相が辞任を表明し、その後は、正式な内閣が不在の政治空白が続いている。1月15日、首都ベイルートでデモ隊が治安部隊と衝突し、多数の負傷者が出た。

その前日にはドルの預金引き出し制限に激怒した抗議者たちが銀行を襲撃したばかりだった。1月18日、19日にもデモ隊と治安部隊の衝突があり、報道によれば、2日間で負傷者が490人超となっている。

急落するレバノンポンド

反政府デモは2019年10月半ばから続いているが、国民の怒りは銀行にも向けられている。金融危機を回避するため、多くの銀行が引き出しを月約1,000ドルまでに制限しているからだ。預金者は自国通貨レバノンポンドでの取引を余儀なくされているが、同通貨は対ドルで急落している。

状況を複雑にしているのは、反政府デモの圧力により10月末にハリリ首相が辞任して以来、レバノンが無政府状態にあることにある。12月にディアブ元教育相が新首相に指名されたが、組閣には至っていない。

レバノンに逃亡したゴーン被告だが、レバノン国内ではせっかくの資産の多くは現実的に動かすこともできず、自宅も日産からの訴訟を受けるなど、安住の地とは決してなりえない。

デモに参加する多くの国民にとっては、ゴーン被告は英雄などではなく、既存既得権益者であり、攻撃の対象にもなり、これも相当な負担となるであろう。

長期低迷を避けられない日産

日産はゴーン被告の突然の逮捕劇から経営の混乱が続いて屋台骨が揺らいでしまった。
ゴーン被告が逮捕後の4月8日に開かれた日産の臨時株主総会で取締役から解任され、筆頭株主の仏ルノーのジャンドミニク・スナール会長を新たに取締役に選任した。

ところが、カリスマ経営者を追放しただけでは日産の経営の混乱は収まらなかった。今度は、ゴーン被告による会社の私物化を追及する急先鋒だった西川廣人社長兼CEOの報酬不正問題が発覚し、9月には辞任に追い込まれた。

辞任後はCOO(最高執行責任者)の山内康裕氏が代表執行役として代行を務めていたが、役員人事を決めるために外部の有識者などで構成する新設の指名委員会は、内田誠・専務執行役員を抜擢した。12月1日付で新社長に就任し、ゴーン前会長の逮捕から約1年が過ぎて、ようやく新体制が動き出した。

だが、西川前社長がやり残した宿題も山積しており、スタートボタンは押したものの、泥沼状態の悪路からの急発進であり、待ったなしで取り組む課題が多い中で、最優先されるのは低迷する業績の立て直しだ。

19年9月中間決算は、本業のもうけを示す営業利益がわずか316億円で、前年同期比85.0%減となった。最終利益も653億円(同73.5%減)と、いずれも大幅減益となり、今期の業績見通しも下方修正している。

魅力的な車が見当たらない日産

ゴーン政権で進めた強引な販売拡大戦略のツケが回ったためで、主力の北米市場が苦戦し、台数を追うあまり採算性が悪化した。しかも、過剰な値引きでブランド価値が低下したことも大きな痛手となっている。

役員報酬などをめぐる不正が起きたことへの反省からガバナンス、企業統治の改革やルノーとの資本関係の見直しも重要な課題だが、まずは足元の業績を回復させるには、2020年度以降、ヒットする新型車をどれだけ世界市場に投入できかどうかに尽きるだろう。

そんな課題が山積みの日産だが、新体制が船出して1か月も過ぎないうちに、集団指導体制の一角を握っているナンバー3の関潤副COOが突如辞任を表明し、経営の混乱ぶりはしばらく続きそうだ。

混迷する状況が長期化すれば、日産の本格的な再生までは長期間要することとなり、電気自動車、全自動運転カーなど、IT業界からの新規参入も進む中では、このまま埋没してしまうことも十分に考えられる。

日産はルノーによる救済前には倒産の瀬戸際になったこともある。当時の株価を見直す事は今後の投資戦略に使える点もあるだろう。国家が混迷することにより、レバノン通貨は米ドルに対して継続的に大きく下落しているが、新興国通貨の有事の下落は、今後の他国の通貨をみる上でも参考になる。

日産自体は、今後の自動車産業再編成のキーとなる可能性もあり、中国企業の傘下に入る可能性否定できないのではないだろうか。

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