アマゾンの株価が過去最高値、Amazonに弱点はないのか?
アマゾンの2020年1~3月期の北米EC事業の売上高は対前年同期比28.8%増と大きく伸びている。だが新規顧客の獲得は限定的で、人件費や配送コストの急増で利益は減少しており、宅配遅延の問題も発生するなど、ここにきて課題も多く浮上している。
2020年7月時点でのアマゾンの強さを改めて検証し、競合問題も理解を深めてほしい。7月10日時点での株価は3,182ドルをつけ過去最高値を大きく更新している。
プライムエアスタート間近
ドローンを利用した商用配送サービス「プライムエア」の開始日は暫定的に8月31日に設定となった。当初はアメリカ国内の庭がある戸建住宅などで限定的に行われるだろうが、世界各国の山間地等での配達が可能になれば、日本の過疎地の不便さも大きく解消されることにつながる。
そして既存配送会社の領域にも進出することになれば、アマゾンにとって新たな大きな収益源が生まれることにもつながる。
Amazon Airも着々と進む
アマゾンはボーイング旅客機から改修した貨物機12機を新たにリース導入した。既存の70機と合わせて80機以上の航空機を自社の貨物便「Amazon Air」に投入する。
機体に「Prime Air」と描かれたAmazon Airの機体はアマゾンの専用貨物便となる。Amazon Airは米国内で自社の物流を担う貨物便で、新型コロナに対応するため個人防護具の輸送も担っている。
アマゾンは自社の物流専用貨物機を2016年から導入している。航空機に加え、米国内で空港の貨物施設についても整備を進めている。
ブロックチェーンを使った配達商品管理
米国特許商標庁はアマゾンがおよそ約3年前に出願した「分散型台帳認証」の特許申請を承認した。申請には、ブロックチェーンを使って「デジタル信用を商品のサプライチェーンの起点」から最後の1マイルまでを網羅すると記載されている。
つまり、消費者が購入した商品の信頼性を証明するシステムができあがるわけだ。
このシステムは、配送業者、製造業者、送り主からのデータを、オープンフレームワークに集約し、各社の情報システムを超えて商品の由来を明確にする。配送分野での独自性をアマゾン・ウェブ・サービスのように展開すれば、圧倒的強さを将来発揮する可能性も高い。
インドでは通信事業へ触手を伸ばす
インドですでに65億ドルを投資しているアマゾンは、インド第3位の通信事業者であるBharti Airtelの株式の5%を20億ドル以上で取得する交渉に入っている。
既にインドではFacebookが同様に大手通信事業者への出資を行い、そこを経由したEC拡大を目指しており、アマゾンはそれに対抗する措置として今回の買収を戦略の入り口においているようだ。
新型コロナ後、アマゾンへの不満も
アマゾンでの買い物が以前より増えたという人が増加しているが、満足する人は逆に減っている実態もアメリカの信用機関の調査では明らかになっており、急激な売上上昇に体制が追いついていない現実も見え隠れしている。
テスラ、イーロン・マスク氏との対立がエスカレート
米テスラのイーロン・マスクCEOは「 アマゾンを分割する時が来た。独占は間違っている」とツイートし、アマゾンのジェフ・ベゾスCEOをタグ付けしたこの投稿で、両CEOの対立はエスカレートしそうである。
宇宙ベンチャー企業のスペースXも率いるマスク氏は昨年、ベゾス氏が創設した競合会社ブルーオリジンの衛星開発の取り組みについて、スペースXに比べ何年も遅れていると述べていた。
リテール包囲網
小売店業界最大手の米ウォルマートは、顧客や従業員を新型コロナから守るために、AIやロボティクス技術による自動化や省人化に積極的であり、この流れは、新型コロナ後も続き、小売業界に広がっていくことになるだろう。
ウォルマートはここ2~3年、アマゾンへの対抗策としてネットで注文して店舗で受け取る、いわゆる「BOPIS(バイ・オンライン・ピックアップ・イン・ストア)」と呼ばれる取り組みを強化してきた。
コロナ危機下の米国リテール市場での本当の勝者はアマゾンではなく、ウォルマートやターゲットなどの実店舗リテーラーのEC事業という声も多く上がっている。実店舗をECに活用していることが強みとなっているのだ。
米国では9割以上の消費者の自宅から10マイル以内にウォルマートの店舗が存在するという状況にある。同社は全米4,750店のうち約1,600店をEC事業の宅配拠点として活用しており、約3,000店でネットから注文を受けた商品を引き渡すサービス(クリック&コレクト)を提供している。こうした体制により、迅速な商品の提供を可能にしている。
コロナ下の実店舗リテーラーのEC事業の急進は、アマゾンと比較して成長余地が大きかったという側面もある。ウォルマートのEC事業の推定年間売上高は約390億ドルと、推定取扱額3,390億ドルに達しているアマゾンと比べると小規模、未成熟なのである。
アフターコロナの世界でも、EC市場では、アマゾンと実店舗リテーラーの競合が本格化していくのは間違いないだろう。
競合があっても更に先を進むAmazon
様々な競合が、世界各地で現れても、アマゾンの強さは更にその先を行っているように感じ取れる。
様々な進展を常に確認する必要があるが、新たな大きな収益源の可能性も幾つも見え、盤石な体制の中での相乗効果により、継続的な成長が見込め、資産分散先として保有すべき株であることは間違いないだろう。