政治混乱

レバノン大爆発をきっかけに再び爆発した市民の不満・怒り

レバノンで大爆発が発生

レバノンの首都ベイルートで8月4日、大量の硝酸アンモニウムによる大爆発が起き、これまでに150人以上が死亡、6000人以上が負傷した。爆発の威力は凄まじいもので強い風と煙が周囲に吹き飛び、市民30万人の家々が被害を受け、現地では今でも混乱が続いている。

レバノンでは反政府の抗議デモも爆発

そして、6日には反政府デモが始まり、同日だけで5000人から1万人の若者たちが通りに出て抗議活動を行い、一部は警官隊と衝突し、700人あまりが負傷したとされる。多くの若者たちの不満は、おそらく今回の大爆発それ自体にあるのではなく、長年の政府の失策や汚職にあり、それが今回の大爆発がきっかけとなって一気に爆発した。

しかし、近年を振り返っても、レバノンでは同様の抗議デモが繰り返し発生している。

2020年1月:200人以上が負傷、うち80人あまりが病院へ搬送

今年1月、ベイルートでデモ隊と警官隊の間で大規模な衝突が発生し、200人以上が負傷、うち80人あまりが病院へ搬送された。翌日19日も同様の衝突が続き、2日間での負傷者は450人に上った。現金を下ろせないなどとして、ベイルートにある銀行の支店が破壊される出来事もあった。

2019年12月:40人以上が負傷

昨年12月には、ベイルートで男のグループが警官隊に向けて投石したことがきっかけで、警官隊とデモ隊との間で衝突が発生し、40人以上が負傷した。警官隊は催涙弾やゴム弾などでデモ隊を追い払うなどした。

2019年10月:数万人規模の抗議デモが発生

昨年10月には、政府がスマートフォンのSNSアプリ使用に対する課税を発表し、国内で若者を中心とした数万人規模の抗議デモが発生。抗議デモは首都ベイルートを中心に全土に拡大。政府は同課税撤廃を含む改革案を発表したが、市民による抗議デモは一向に収まらなかった。同月下旬、当時のハリリ首相が辞任を発表した。

抗議デモはSNSで拡散され、デモに参加する人は増加中

最近の抗議デモでは、一部の若者たちはスマートフォンで動画や画像をSNS上に載せ、同じような不満を抱える同士たちとネットワークを構築しようとする。また、中東ではイラクやイランでも反政府的な抗議デモが断続的に発生しているが、去年のデモでは、レバノンの若者が「イランとイラクの若者たちと一緒になって戦おう」と言及する姿も目撃された。

今月6日に発生した抗議デモの様子は、おそらく同様の不満を持つ他国の若者たちもチェックしており、今回の大爆発のように、何か大きな出来事がきっかけで再び一気に不満が爆発する可能性がある。

そして、新型コロナパンデミックによって、各国の経済的疲弊はさらに深刻なものになっている。新型コロナパンデミックによって失業や経済格差が長期に渡って続けば続くほど、こういった若者たちの抗議デモがエスカレートし、より暴力的なものになってしまう恐れがある。

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サントロペ
国際政治学者、大学教員でありながら、実務家として安全保障・地政学リスクのコンサルティング業務に従事する。また、テレビや新聞などメディアでも日々解説や執筆などを積極的に行う。