経済ビジネス

デジタル人民元の実現が世界にもたらす影響

世界が脅威するデジタル人民元

2019年末、中国の政府系シンクタンクの幹部が「デジタル人民元」構想に言及し、「中国人民銀行(=中国の中央銀行)が世界で最初にデジタル通貨を発行する中央銀行になる」という見通しを述べた。

今、多くの国、特にアメリカがこの中国政府が主導して進める「デジタル人民元」構想に大きな関心と、これ以上ない警戒感を示している。

なぜなら、それがアメリカにとって大きく国益を損ね、国防上の戦略も大きく転換する必要に迫られるからだ。

実現性が高まる、デジタル人民元とは?

以前より中国内の官民に対して習近平国家主席みずから、ブロックチェーンが将来の金融を支える基幹技術だとして開発を進めるよう指示しており、中国人民銀行は2014年にデジタル通貨に関する専門の研究チームを結成、また2017年には「デジタル通貨研究所」も設立している。

今や中国は世界をリードするブロックチェーン技術の開発環境と技術者を要する国であり、デジタル人民元の発行はその開発案件の一つに過ぎないだろう。

しかし、その中の最重要項目の一つであることは間違いない。

構想を聞いた時は誰もがその実現の可能性に否定的だった「法定通貨のブロックチェーン化」。

それをいよいよ実現させようとしている中国の本気度に、多くの国が驚きと焦りを持っていることだろう。

デジタル人民元は中国の中銀行自らが発行する通貨

このデジタル人民元は、分かりやすく言えば「ブロックチェーンを活用した通貨=暗号資産や仮想通貨」と呼ばれるものだ。

同種のもので有名なものにはビットコインやイーサリアム、最近で言えばFacebookが開発中のリブラなどがあるが、

今中国が研究している通貨=デジタル人民元はそれらとは大きく違う点がある。

それは、中央銀行が自ら発行する通貨である、という点だ。

それ以外のビットコインのような暗号資産の多くは、確かに自由に、ボーダレスに、瞬時に、また安い手数料で送金や支払いができるが、それらには何も価値の裏付けがないためいつでも価値が「ゼロ」になる可能性を持っており、そのことから「通貨」であるかという点に関しては疑問符がつくものだ。

デジタル人民元は法定通貨と同じで価値も安定する

一方、デジタル人民元の構想は違う。

中国の中央銀行が発行することから、現在流通している人民元と同じ法定通貨として政府自体がその存在を認めるものである。

つまり、信用力は紙幣の人民元とイコールであり、つまりは中国政府への信用が裏付けとなり価値も安定する。

その上、ATMや支店窓口などの銀行口座を介することなく、誰でも、どこでも使えるようになる。

投資・投機という視点で見ると、ビットコインのようなボラティリティが高いものが好まれるだろうが、実際に国際間送金が必要な貿易業務などで、実用的なのは間違いなく信用力のある通貨のほうだ。

そう考えると、デジタル人民元がいかに可能性を秘めた構想であるかが分かってくるだろう。

デジタル人民元による、中国の目論見とは?

このデジタル通貨の発行を目指す中国の目論見はどこにあるのか?

その最大の狙いは「人民元の国際化」に他ならない。

今や世界一の貿易大国となった中国。

しかし、その自国通貨である人民元は、国際決済に使われる比率はたった2%程度にすぎない。一方でアメリカのドルは40%と圧倒的なシェアを占めている。

そのため、もしアメリカが今後、何かしらの理由で中国に対する経済制裁としてドルの金融口座の閉鎖などをチラつかせられると、国内の様々な輸出入が制限され、経済が立ちゆかなくなるリスクがあり、それが中国の「弁慶の泣き所」になっている。

これは中国だけではなく、貿易依存度が高い国であればあるほど、基軸通貨たるドル無くして経済活動は実質不可能な状態になる。

これは中国自身も理解している大きなリスクであり、弱みである。

国力も軍事力も巨大に膨れ上がった中国に残された、世界最強の国になるための最後のピース。

それが人民元の国際化なのである。

人民元の国際化の実現の可能性は?

今、世界経済を取り巻くのは米ドルを機軸通貨とした資本主義だ。

世界の隅々まで、この「仕組み」が行き渡った状況で、この仕組みを覆すことは不可能である。そう考えられてきた。

しかし、それを覆す可能性がある技術が開発された。

それがブロックチェーン技術であり、技術で先行しだしたアメリカに追いつけ追い越せと、国策として技術開発に取り組んできたのが中国である。

では、実際にデジタル通貨を発行することで、「人民元が国際化」が実現できるのか?

答えはYESであり、各国が警戒感を示す理由だ。

以下、そう考えられる3つの要素を話そう。

1)中国国民に即時浸透するデジタル通貨である

まず、導入直後から中国国内であっという間に浸透するデジタル通貨になる。

中国は既にキャッシュレス社会が浸透しており、スマホ決済が社会のすみずみに行き渡り、利用者も6億人を超えている。

そのため、デジタル通貨に切り替わったところで中国国民は自然に受け入れられる土壌がある。中国国民が使う、ということは、世界中の観光地を中心に、それが決済できる環境を導入せざるを得ない。

今、日本中の店頭で中国系のスマホ決済が広く流通しているのが見て取れるが、海外での広がりはそれ以上だ。

結果的に我々日本人も含めた世界中の方が、海外旅行にいく際にはデジタル人民元を使った方が良いという状況になることが予想される。

2)アフリカ経済を支配する能力がある

さらに、この技術が世界経済を変える狼煙をあげるとすれば、それはアフリカだろう。

今や中国は、様々な支援や投資・出資を皮切りにアフリカ各国の経済に広く食い込み、高い存在感を示しているが、

デジタル人民元が発行されれば、中国はアフリカ経済活動の実質的な支配者になるだろう。

アフリカ各国は自国通貨の安定感が欠けているという背景があるため、利便性も政府の裏付けによる価格の安定感もあるデジタル人民元が出てくればまたたく間に民間に広がり、実質的な主要通貨となることが予想される。

アフリカの人口は12億人で、これからも若い労働力が増え続ける。

一方で、中国の人口は13億人。

アフリカの経済の根幹を「通貨」という形で支配することで、地球上の人口の実に1/3が使う通貨になる。

今後、ますます労働人口が増えつづけるアフリカは、世界で無視できない存在に成長することを考えると、この要素の占めるウェイトは高い。

3)利便性と安全性は世界のビジネスの場で評価される

このデジタル人民元は我が国でも民間の間で大きな利便性を享受できる可能性がある。

例えば、我々も良く使う国際送金にあたりSWIFTというものを使うが、

送金に時間もコストもかかるものだ。しかし、それしか現状は選択肢がないので、海外送金の際はその仕組みを使わざるを得ない。

あのSWIFTというものは、アメリカが実質的に抑えている「仕組み」であり、国際送金・決済にあたり必ず米ドルを介させて、高い手数料を落とさせる仕組みになっている。

しかし、デジタル人民元は、それを介する必要がなくなる。

送金も速く、手数料も極小。

その上で通貨としての信頼もあるのであれば… 特に利益を追求したい民間の貿易関係の会社を中心に、使われない理由が現状では見当たらない。

デジタル人民元が国際化された結果、どうなるか?

利便性と、国の信頼の裏付けにより、デジタル人民元が事実上国際化したとしよう。

その結果、どうなるか?

経済活動の利便性・選択肢が広がることそうだが、我が国にとっても無視のできない、アメリカによる国防戦略に大きな変革が迫られることになる。

今、世界の経済を実質的にアメリカが支配しているのは、基軸通貨のドルとしての高いシェアによるところが大きい。

そのため、もし他国の軍事・政策の結果、アメリカの国力が損なわれそうであれば、経済制裁と称してドル口座の閉鎖というカードを持っている。

しかし、このデジタル人民元構想の行方次第で、ドルの代わりに貿易を含む経済活動の中で人民元を使う国が増えれば、その効果が薄れることになる。

むしろアメリカがドル口座を凍結すれば人民元を使えばいいや、とデジタル人民元ユーザー国を増やすことになる。

アメリカに敵対する国々はこぞって人民元を使うことになり、対アメリカの経済連合が自然とそこに生まれることになる。

それを考えると、デジタル人民元が実現する前後から、アメリカも経済制裁のカードを簡単に切れなくなるだろう。

世界の勢力図が、明確にアメリカVS中国という図式に変わり、世界の経済の枠組みやバランスすらもごっそり変えてしまうだろう。

いずれ、中国がアメリカに対して「人民元口座の封鎖」という形で制裁を加える、そんな日が来る可能性も無いとは言えないのである。

今後もAI TRUST編集部として、デジタル人民元、そして経済の動きについてのヒントを皆さんにお伝えし続けていく。この点にも是非期待してほしい。

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