最終損益合計 1兆円の赤字
3月期決算の上場企業の令和2年1~3月期最終損益合計が、1兆473億円の赤字となった。全33業種のうち輸送用機器や鉄鋼など15業種が赤字で、新型コロナが直撃して幅広い業種が不振に陥った。通期も最終利益が前期比27.2%減と大幅に業績が悪化した。ただ市場では経済活動再開への期待が先行し、株高は進んでいる。
東京証券取引所第1部の上場企業をSMBC日興証券が集計した。5月末までに業績を開示した1,428社が対象で、全体の96.7%に上る。四半期の最終損益合計の赤字は、東日本大震災が起きた平成23年1~3月期以来。
令和2年3月期の通期決算の最終損益合計は黒字を確保したものの、ソフトバンクグループが9,615億円、日産自動車が6,712億円の赤字で、全体を押し下げた。日本製鉄や丸紅、JXTGホールディングスも巨額の赤字となった。
企業経営者へのアンケート調査では?
共同通信グループで市場調査を手掛ける矢野経済研究所は、第一線で活躍する企業経営者・ビジネスパーソンを対象に「新型コロナ収束後の世界と企業経営」に関する緊急調査を行い、調査結果を発表した。
新型コロナの収束時期と通期業績への影響については調査結果によると、6月末までに収束した場合は、通期の売り上げは当初予想の8%減程度にとどまり、通期業績への影響を1割内に止めることができる明るい見通しとなった。
だが、収束が7〜9月期になると17%減になり、10-12月期まで長期化した場合は27%減に下振れが拡大する。4社に1社は通期計画の6割達成も困難になるという。
売り上げ減の理由としては、外出自粛や休業要請による需要減、テレワークによる営業活動の制約やイベントの中止などで営業機会の喪失があることなどが挙げられた。東京五輪・パラリンピックの延期による影響は14.6%にとどまるという。
業種別ではIT、教育・学習支援は影響が少ないのに対し、自動車など輸送機器、宿泊・飲食、アパレルなど繊維関連はダメージが大きいのが特徴だ。医療・福祉業界関係者は、感染が拡大することで通常医療の提供が制限され、経営に重大な影響を与えると推測している。
デジタルトランスフォーメーションへの適応
新型コロナの感染拡大で消費行動が大きく変わるなか、デジタルトランスフォーメーション(DX)への対応力が企業の明暗を分けている。
米ウォルマートやウォルト・ディズニーは店舗やテーマパークでの集客の落ち込みをネット販売や動画配信事業で補った。日本でもニトリなどがデジタル対応を強化しているが、取り組み企業の数では米に劣っている。
DXに遅れた企業は業績も振るわないことも明確になっている。デジタル対応力が企業のコロナ耐性を左右しはじめている。
Zoom急成長
ビデオ会議サービス「Zoom」を運営する米ズームは、2日に発表した2020年2~4月期の決算は、売上高が前年同期比3倍近く増加した。新型コロナ蔓延でビデオ会議需要は急増しており、1日当たりののべ利用者は一時昨年末比30倍の3億人にのぼった。
新型コロナの感染問題は人同士の接触や外出の機会を大きく減らし、そこで恩恵を受けたのが、ネットの通販や広告で支配力を持つ米IT大手である。
FAANG強し
アマゾン・ドット・コムの20年1~3月の決算は前年同期比26%増収で過去最高を更新した。アルファベットも同じ期は13%増収で純利益も3%増を確保した。フェイスブックでは3月末のグループ全体のSNS利用者が昨年末比1億人増の29億9,000万人となった。
米国ではウォルマートの20年2~4月期の純利益は前年同期比4%増の39億9,000万ドルで、市場予想を上回った。業績をけん引したのは売上高が同7割増だったネット販売だ。ディスカウントストア大手のターゲットも、同2~4月期のネット販売の売上高が2.4倍に膨らんだ。物流改善など17年から取り組んできたDX対応が奏功した形となった。
ネット対応力で明暗が分かれる
外食ではメキシコ料理チェーンのチポトレ・メキシカン・グリルがネット注文・店舗受け取りのシステムを駆使して20年1~3月期のネット経由の売上高を前年同期比81%増やした。コロナ前の19年に基盤を整えていたことで、ネット注文の需要急増に対応できた。
ニトリ、マクドナルド好調
日本ではニトリがネット販売の機能強化を進めてきた。新型コロナでは入店客数が減少したものの、通販事業を含む5月の既存店売上高は増収だ。日本マクドナルドはネットで注文・支払いができるサービスの利用が4月以降、伸びている。
米企業の強さはFAANGへの対策にあり
純利益が昨年比で減少した企業の割合は足元で米国より日本企業の方が多い。背景の一つにはDXの徹底があると見られる。米企業はここ数年、巨大化するIT大手への対抗を進めてきたからだ。
ウォルマートの場合、スマホ注文や在庫管理、物流効率化までアマゾンを徹底研究し、16年には新興のネット通販企業を約33億ドルで買収しノウハウを取り込んだ。
19年に動画配信に本格参入したディズニーは、16年から米大リーグ機構(MLB)傘下のインターネット動画配信企業に出資し知見をためてきた。ネット動画がテレビ事業を脅かすとの判断だが、コロナ下ではテーマパーク事業の売り上げの落ち込みを動画が補っている。
コロナ後のニューノーマルバブルへの投資対応は?
過剰流動性資金が継続的に市場に入り込み、外国勢の売りポジション解消のための継続買いが続くことで、コロナ後のニューノーマルバブルは大きく膨らむ可能性が高くなっている。
加熱する相場では業績に関係なく、最終的には何でも買われるような状況が見られるかもしれない。しかし業績が伴わない銘柄は暴落リスクも高く、手を出すべきではない。
新型コロナへの臨機応変な対応力、IT化、デジタルトランスフォーメーションへの適応力、このあたりをキーワードにし、買う銘柄を探し出し、市場での割安銘柄を探っていくのが良いだろう。
そしてボラティリティが高い相場が続くことが予想されるため、焦って買う必要はなく、ゆっくりと値段の落ちたタイミングを見計らうのが正しい投資方法と言えるだろう。
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