今後も中国では邦人拘束が続くか
新型コロナウイルスの感染が世界各地で拡大し、国際秩序に新たな変化をもたらしている中、アジア太平洋地域では中国の拡張的行動に対する警戒心が高まっている。
中国とインドの国境地帯では武力衝突が発生し、45年ぶりに死者が出る事態となり、東シナ海では中国の海洋活動が活発化し、日中間で新たな亀裂が生じ始めている。
また、新型コロナウイルスの発生源を巡って、中国とオーストラリアの二国間関係は悪化しており、国家安全法を巡る香港情勢によって米中関係も冷え込んでいる。今後、中国と日米印豪などの民主国家との間でさらに亀裂が深まった場合、さまざまな問題に影響が出そうだ。
中国国内における外国人の不当拘束とは?
その1つが、中国国内における外国人の不当拘束だ。2019年9月、中国を訪問していた日本人の大学教授が北京で拘束された。この教授は最終日に日本へ帰る直前に北京の空港で拘束されたという。同教授は中国の近現代史を専門とし、国家機関に勤務経験があることから、こういった専門性や経歴が今回の拘束に影響した可能性もある。
国立大学の教員は準公務員にあたるが、そういった身分の者が拘束されるのは初めてとみられる。中国では、反スパイ法に基づき逮捕された日本人は少なくとも13人に上り、実刑判決を受けた者もいる。だが、同様の事態は日本だけではない。
2019年9月、江蘇省で英語圏から英語教師を受け入れる事業を展開する企業の米国人経営者ら2人が、受け入れた英語教師らを不当に他省へ行き来させていたとして逮捕された。詳しい背景は明らかになっておらず、その2週間前に米国内で中国政府職員1人が就労ビザの詐欺容疑で逮捕されたことに対する外交的報復ではないかとの指摘もある。
また、2019年8月、香港にある英国領事館に勤務する職員が中国本土へ出張した際に拘束されたことに対して、英国は強い懸念を表明した。この拘束について、一部では、英国が香港情勢について、北京に自制を求め続けたからではないかとの声も聞かれる。
2015年にも、英国のパスポートを所持する香港在住者が中国の秘密警察に拘束され、他の4人とともに中国本土へ送られ行方不明となった。この4人は中国政府を非難する本を過去に出版したことがあった。
さらに、オーストラリアは2018年6月、外国政府の国内でのスパイ活動や内政干渉を防止する複数の法案を可決したが、中国は2019年1月、オーストラリア国籍の作家の男性を広州で拘束し、スパイ容疑で逮捕した。
この作家は、2000年にオーストラリア国籍を取得し、長年中国政治に関する論評活動を行っていた。男性はニューヨークからの便で広州に到着した際、空港で拘束された。
今までに67人の台湾人がスパイ容疑などで逮捕
一方、2019年9月現在、少なくとも67人の台湾人がスパイ容疑などで逮捕され、行方不明となっている。逮捕の理由や背景も分かっておらず、家族も連絡が取れない状況が続いているという。また、昨年6月には、スペインを拠点に中国国民に電話で接触し、多額の金銭を詐取していた台湾人の容疑者94人の身柄が中国本土に送られたことが判明した。
以上のように、中国での外国人拘束は日本だけではなく、欧米諸国や台湾でも大きな問題となっている。中国当局は法律に基づいて対処しているというが、具体的な背景やその後の処遇について不明な点が多く、政治的な思惑があるように感じられる。
新型コロナウイルスも影響して、今後さらに中国と日本、欧米諸国との間で関係が悪化した場合、在中邦人が意図的に拘束される事例が増える可能性もある。中国に展開する日系企業は、今後の大国間関係の行方を注視する必要がある。
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