ツール解説米国・グローバル市場の状況をデータで診断
Background / 背景を読むいまの景気は、過去25年のどのあたりにいるのか
実体経済・労働・信用の17指標を、点数にまとめずに並べます。なぜ合計をやめたのか、「警戒側」の境目はどう決めたのか、そして「いちばん悪いときが買い場」がなぜ成り立たなかったのかをまとめました。
景気の «遅い層» は、点数にするとかえって見えなくなる
失業率も、銀行の貸し出し態度も、ゆっくりとしか動きません。 だからこそ、ひとつの点数にまとめると動かなくなり、何が起きているか分からなくなります。
景気の指標は、株価のように日々跳ねません。1か月に一度しか出ないものがほとんどで、 四半期に一度のものもあります。こうした «遅い層» を10本、20本と集めて平均すると、 上がっているものと下がっているものが打ち消し合い、合計はほとんど動かなくなります。
このツールは、米国の実体経済・労働・信用から17の指標を選び、点数にまとめずに並べます。 出すのは「17本のうち何本が警戒側にあり、それはいつからか」という数え上げと日付だけです。
景気の後退そのものを予告するものではありません。 このツールが答えるのは「いま何がどれだけ厳しいか」「それはいつからか」の2つだけです。 暴落の時期も、買い時も示しません。その理由は «このツールが言わないこと» に書きました。
«4.1%の失業率» は高いのか、低いのか
単位の違う17の指標を同じ土俵に乗せるために、値そのものではなく «過去25年の分布のどこにいるか» に置き換えます。
失業率は%、社債のスプレッドは%ポイント、連銀の活動指数は単位のない数字です。 そのままでは比べられません。そこで、それぞれの指標について 「その時点から遡った25年のうち、何%の期間より厳しいか」を出します。 90なら「過去25年の90%の期間より厳しい」という意味です。
未来は覗かない
各時点の分位は、その時点までのデータだけで計算します。 2010年の分位を出すのに2020年の数字は使いません。 «後から見れば分かった» を混ぜないためです。
25年そろうまでは参考値
25年ぶんのデータが貯まるまでは短い窓で代用するので、値がずれます。 その期間はチャートで点線にして区別しています。
警戒側と呼ぶのは、分位80以上(上位20%)です。 この境目は後から選んだものではありません。過去の景気後退の «最中» に、 各指標が実際にいた位置の平均を測ると、80〜96 に集まります。 そこに合わせてあります。
帯に重ねた細い縦線は、過去の後退が始まる12か月前に、その指標が平均してどこにいたかです。 「後退期の平均」を使っていないのには理由があります。長短金利差だけは、 後退が始まる前に逆転し、後退の最中にはもう元に戻っています (後退期の平均は分位36、入口12か月前は分位90)。後退期の平均を重ねると、この行だけ嘘になります。
悪くなるのは速く、良くなるのは遅い
17本の分位を平均すると、1本の線になります。これは判定ではなく要約ですが、 形にははっきりした特徴があります。
1977年以降で測ると、この線は 16 から 99 まで、83ポイントの幅で動いています。 ひとつの点数にまとめた旧ツールが17か月で20.6しか動かなかったのと比べると、 同じ «まとめた1本» でも、潰し方しだいでここまで違うということです。
| 区間 | 回数 | 所要月数(中央値) | 範囲 |
|---|---|---|---|
| 悪化(谷 → 山) | 10回 | 20か月 | 10〜52か月 |
| 改善(山 → 谷) | 9回 | 23か月 | 12〜69か月 |
悪化のほうが短く、1か月あたりの進みも速くなっています。 ただし「ある月に突然崩れる」のではありません。月ごとの変化の分布は左右対称に近く、 非対称なのは «区間の長さ» のほうです。急落に見えるものも、16〜20か月かけて進んでいます。
そして範囲の広さ(10〜52か月、12〜69か月)に注目してください。 いまが悪化8か月目だからあと12か月、という読み方はできません。
この線の «山» は、後退の予告ではない
サイクルの山と、景気後退の関係を1977年以降すべて並べると、 «山が来たから危ない» という読み方が成り立たないことが分かります。
1977年以降、この線の山は 11個。NBER が景気後退と判定した入口は 6個です。
- 11個のうち4個は、後退に至っていません(1986年・1995年・2016年・2025年)。 45年で4回の空振りです。
- 後退に対応した山も、その多くは後退が始まった «あと» に来ています。 1980年の山は後退が始まった4か月後、2009年の山は13か月後でした。 この線より先に、後退のほうが始まっていたということです。
- 唯一、後退より先に来た山は2019年2月ですが、その13か月後の後退は感染症によるもので、 因果があるとは言えません。
つまり、この線の山は後退の予告ではなく、後退が進んだ結果です。 ツールの画面にもこの11個の履歴を、空振りを隠さずそのまま載せています。
«いちばん悪いときが買い場» を検証したら、支えが無かった
指標が最も良いときに警戒し、最も悪いときに買う。 直感に合う読み方ですが、49年分のデータで4通りに測って、どれも成り立ちませんでした。
| 測り方 | 結果 |
|---|---|
| 水準とその後の株価 | サイクル位置が最も良いときの12か月先リターンは +14.4%、最も悪いときは +14.8%。 無条件(+12.0%、95%信頼区間 +9.0〜+14.8%)の中に収まり、差がありません |
| 下落リスクで測る | 仮説と逆でした。12か月以内に20%超の下落が起きた割合は、 «最も良いとき» 6%、«最も悪いとき» 21%(無条件8%)。 大きな下落はマクロが 既に 悪いときに起きています |
| 転換点で売買する | 条件のしきい値を15通り試すと、12か月先リターンの中央値が +3.7%〜+34.4% に散らばりました。 答えを決めているのは、しきい値を選んだ人です |
| マクロだけ主張する | 株には触れず «山は過ぎた» とだけ言う形に弱めても、的中は 2/5〜4/7 のコイン投げでした |
根本の制約は単純です。49年のあいだに景気後退は7回、サイクルの山は11個しかありません。 どの切り方をしても、各区分を支えているのは2〜6局面です。 上の «6%対21%» ですら、2局面対2局面の差でしかありません。
ですから正しくは「仮説が間違っていると分かった」ではなく、 「正しいとして画面に出すだけの根拠が無い」です。 根拠なく出したラベルは、使う人がそれを根拠として扱うぶん、無いよりも害があります。
ツールのどこで、何を確かめるか
画面は上から、数え上げ → 17指標のボード → サイクル位置 → 山の履歴、の順です。 線より先にボードを見る順番にしてあります。
- Count / 数え上げ17本中、何本が警戒側か
- いちばん上に出るのは点数ではなく本数です。あわせて、警戒側にあるもののうち いちばん古いものがいつから続いているかを出します。
- Board / 指標ボード何が、どれだけ、いつから厳しいのか
- 1行1指標。生の現在値、過去25年の分布での位置を示す帯、3か月の変化、警戒側に入った日付、 直近5年の推移、そしてその数字がいつ時点のものか。 労働・実体経済・信用・長短金利差で絞り込め、厳しい順にも並べ替えられます。
- Cycle / サイクル位置全体としてはどのあたりか
- 17本の分位を単純平均した線(重みは置いていません)。1977年以降の長期チャートに、 NBER が後退と判定した期間を陰影で重ねています。 実体経済・労働/信用/長短金利差の3本を切り替えられます。
- Phase / いまの局面改善の途中か、悪化の途中か
- 直近の山または谷からの経過月数。横に過去の区間の長さ(中央値と範囲)を併記しています。 予測ではなく、過去の実測の併記です。
- Record / 山の履歴空振りも含めた全部
- 11個の山それぞれについて、後退が起きたか、起きたとして何か月前後だったか。 前節の表がそのまま画面にあります。
点線の下線が引かれた語にマウスを乗せると説明が出ます。ページ下部に用語集もあります。
«警戒側が0本» は «下がらない» という意味ではない
このツールが見ているのは景気と信用の遅い層だけです。 そこに出ていないきしみには、原理的に反応できません。
- 資産価格のバブルは見ていません。株価の割高さ、特定のテーマへの資金集中、 企業間の循環的な取引といったものは、この17指標のどこにも入っていません。 «景気は穏やかだが株は危ない» という状態は、ふつうに起こりえます。
- 改定後の数字です。表示しているのは最新に改定された値で(サーム・ルールを除く)、 当時リアルタイムで見えていた値とは違います。
- 局面の判定は、後からずれます。山と谷は3か月で平滑してから決めるので、 新しい月が入ると直近の判定が動きます。実際に «改善15か月目» の翌月が «改善2か月目» になったことがあります。山が山だったと分かるのは、いつも少し経ってからです。
- 公表の遅れは指標ごとに違います。週次の失業保険申請は数日、 四半期の銀行の貸出態度は2か月以上あとに出ます。 各行の «時点» を必ず見てください。
- 分位は相対的な物差しです。「過去25年で最も厳しい」は 「絶対的に危険」という意味ではありません。穏やかな25年なら、その中の最悪も穏やかです。
本記事とツールは、市場の状況を整理するための情報です。 特定の銘柄や商品の売買をすすめるものではありません。 記事中の数値は実測に基づきますが、データの更新により変わることがあります。