ツール解説米国・グローバル市場の状況をデータで診断
Background / 背景を読む米国流動性・金融環境インデックス 使い方マニュアル
«お金の量» は、なぜ株価と一緒に動いて見えるのか
中央銀行や政府の手元にあるお金が市場に出てくると、株や暗号資産のような値動きの大きな資産に向かいやすくなります。 逆に吸い上げられる局面では、同じ資産から先に抜けていきます。
2020年から2021年にかけて、米連邦準備制度(FRB)は国債などを大量に買い入れ、市場にお金を供給しました。 同じ時期に株価や暗号資産は大きく上がっています。 2022年に供給を止めて吸い上げる側に回ると、今度はそれらが大きく下げました。
ただし «量» だけでは足りません。 お金がたっぷりあっても、銀行どうしがお金を貸し借りする短期の市場が詰まれば、値段は荒れます。 このツールは «どれだけ出回っているか» と «滞りなく回っているか» を分けて採点します。
お金は、どこから出て、どこに溜まるのか
市場に出回るお金の量は、FRB の資産の大きさだけでは決まりません。 政府の預金口座と、FRB に一時的に預けられるお金が、途中でお金を «溜めて» しまうからです。
| 場所 | 何か | 増えると |
|---|---|---|
| 準備預金 | 銀行が FRB に置いている預金。銀行が使えるお金の «元手» | 市場に回るお金が増える |
| 財務省の口座(TGA) | 米財務省が FRB に置いている預金。税収や国債の発行で増える | 市場からお金が吸い上げられる |
| リバースレポ(ON RRP) | 余ったお金を、一晩だけ FRB に預ける仕組み | 市場で使われていないお金が眠っている |
そこで «準備預金 − 財務省の口座 − リバースレポ» を ネット流動性 として見ます。 FRB が資産を減らしていても、リバースレポに眠っていたお金が市場に戻れば、実際に使えるお金はすぐには減りません。
リバースレポの残高は2022年末に2兆ドルを超え、その後、国債の大量発行とともにほぼ空になるまで減りました。 «FRB が吸い上げているのに市場のお金が意外と減らない» 時期があったのは、この «眠っていたお金» が使われていたからです。
量が足りていても、配管が詰まることがある
お金が足りなくなったとき最初に表れるのは、ごく短い期間の金利の «ずれ» です。 政策金利の範囲に収まっているはずの金利が、はみ出して跳ねます。
FRB は、銀行が預けているお金に付ける金利(IORB)で、短期金利の «天井» の目安を作っています。 銀行間の金利(EFFR)や、国債を担保にした一晩の金利(SOFR)が その目安を上回るのは、お金を借りたい人が貸したい人より多くなっている合図です。
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2019年9月
一晩の金利が突然跳ねた
納税日と国債の決済が重なって短期市場のお金が足りなくなり、担保つきの一晩の金利が一時大きく跳ねました。 FRB は資金の供給を再開します。量を減らしすぎると配管が詰まることを示した出来事で、 このツールが短期金利のずれを見ている理由です。
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2020年3月
«現金がほしい» で、何もかもが売られた
感染症の不安で、株だけでなく国債や金まで売られて現金に換えられました。 FRB は大量の資金供給で配管を支えます。安定度の軸が一気に悪化し、量の軸が急回復した局面です。
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2023年3月
銀行の破綻と、緊急の貸し出し
預金の流出で米国の中堅銀行が破綻し、FRB は銀行向けの緊急の貸し出し制度を用意しました。 吸い上げの最中でも、配管が詰まりかければ中央銀行はお金を出すことを示しています。
«量» 60%、«回り方» 40% で合わせる
ふだんの相場を動かすのは量の変化です。一方で、本当に危ない局面では回り方が崩れます。 その2つが同じ «悪化» に見えないよう、判定の区分に工夫をしています。
流動性の供給(60%)
準備預金、財務省の口座、リバースレポ、FRB の資産、通貨の流通量、海外の中央銀行とのドル融通。
資金市場の安定度(40%)
EFFR と IORB のずれ、SOFR と EFFR のずれ、SOFR の急な跳ね、低格付け債の上乗せ金利、金融環境指数の信用の部分。
合計の点数は «潤沢・十分・中立・やや悪化・逼迫気味» の平常域と、«逼迫・危険水準» の緊急域に分かれます。 緊急域には、量が減っただけでは届かないように作ってあります。 量の指標が総崩れでも、短期金利が素直に動いていれば平常域に収まります。 «逼迫» と表示されるのは、回り方の側も崩れたときだけです。
資産ごとの影響も、2つの軸への反応の強さを変えて見ています。 ナスダックのような成長株や暗号資産は量に強く反応し、低格付け債は回り方に強く反応します。 金は回り方が崩れる局面でむしろ買われやすい、という向きの違いも入れています。
ツールのどこで、何を確かめるか
ツールは上から、判定 → 資産への波及 → 指数の構成 → 量 → 回り方、の順に並んでいます。
- Overview / 総合判定いま資金は緩んでいるか、締まっているか
- 0〜100点と区分の名前、観測史上のどのあたりにいるか。資金市場の主要な警報が点いているかも並びます。
- Assets / 資産への波及この環境はどの資産に影響するのか
- 米国株・ナスダック・低格付け債・暗号資産・金・ドル円への影響の向き。反応の強さの違いがここに出ます。
- Composition / 指数の構成総合スコアは何からできているか
- 量と回り方の2つの軸の点数と、それぞれの中身。どちらが合計を動かしているかを確かめます。
- Supply / 流動性の供給市場に出回っているお金は増えているか
- ネット流動性と、その内訳(準備預金・財務省の口座・リバースレポ)の推移。«眠っていたお金» の動きもここで見えます。
- Stability / 資金市場の安定度短期金利は素直に動いているか
- EFFR・SOFR・IORB のずれ。2019年9月のような跳ねが出ていないかを確かめます。
«お金の量が増えれば株が上がる» ほど単純ではない
量と株価が一緒に動いて見える時期は多いものの、景気や企業の利益、金利の水準も同時に効いています。 量だけを取り出して値段を読むことはできません。
- FRB の資産や準備預金は週次です。量の軸は週に1回まとめて動きます。
- 財務省の口座は、税の納期や国債の発行予定で大きく揺れます。一時的な増減を、流れの変化と読まないでください。
- «やや悪化» は緊急の合図ではありません。量が減っている、という平常域の中の区分です。
- 資産への影響は向きの目安です。それぞれの資産には、流動性以外の値段の理由があります。
本記事とツールは、市場の状況を整理するための情報です。特定の銘柄や商品の売買をすすめるものではありません。