政治混乱

コロナ禍で緊張が高まる中印関係、今後激化する恐れも

中国とインドの国境地帯で45年ぶりに死者が出る事態に

中国とインドの国境地帯では6月に武力衝突が発生し、45年ぶりに死者が出る事態となった。インド軍によると、6月15日夜から16日未明にかけ、北部ラダック地方にある中国との係争地域で両国軍が衝突し、インド軍の兵士20人が死亡した。

衝突が発生したのは標高が3500メートル以上のチベット高原の氷河湖であるパンゴン・ツォで、うち17人は負傷後に気温が氷点下になり、低体温症などで死亡したとみられる。

中国側にも死傷者が出たというが、パンゴン・ツォなど実効支配線付近では5月から両軍がにらみ合い、小競り合いが起きてきた。両軍は5月5日にも衝突し、双方で多数の負傷者が出たが、それ以降、中国は国境付近に兵士5000人あまりを増強している。

中国はインド支配側で基地を建設中

また、6月下旬に撮影された人工衛星による写真によると、中国は係争地帯であるガルワン渓谷に倉庫などを設置するだけでなく、インドの安全保障専門家は、中国が実行支配線のインド支配側で基地を建設していると主張した。

こういった状況がどこまで進んでいるかは不明だが、インドと中国の係争地域は高地という立地上、大量に積もる雪などの影響で実行支配線が長年曖昧なままであり、それが中国による過度な行動を許しているという現実もある。

インド国内では反中デモが各地で発生

これまでの衝突によって、インドでは習近平氏のポスターが燃やされるなど市民による激しい反中デモが各地で発生し、モディ首相も断固とした措置で対応すると厳しい姿勢を示している。

インドは、インド周辺で影響力を拡大しようとする中国を強く警戒してきた。昨年春の総選挙で勝利したモディ首相は、第2次政権初の外遊先としてモルディブとスリランカを訪問した。

中国は着々と真珠の首飾り戦略を実行中

モディ首相は、モルディブで2018年12月に脱中国を掲げて就任したソリ大統領と会談し、モルディブに最大14億ドルもの財政支援を行うと発表し、スリランカのシリセナ大統領と会談でも、スリランカへの政治経済的な支援を強化する意志を示した。

これまで、中国は2013年に就任したアブドラ・ヤミーン大統領のもと、モルディブに多額の経済支援を行い、橋や道路、住宅などを次々に建設し、スリランカでは2017年7月、同国南部に建設されたハンバントタ港の利用権が99年に渡って中国に譲渡された。また、中国はパキスタンを一帯一路の要衝に位置付け、2013年1月には南部グアダル港の利用権が43年に渡って中国へ明け渡された。

インドを囲むかのような中国のこのような戦略は “真珠の首飾り戦略”とも呼ばれるが、モディ政権はこういった中国のやり方に強い不信感を抱いてきた。

インド洋や南アジアにおける中印の覇権争い

そのような中、今後は自らの国境が脅かされる事態となっている。モディ政権にとって、中国への警戒はレベルがワンウェーズ上がったと言える。現在、ラダック地方で起きていることは両国の領土紛争という枠に収まるものでなく、インド洋や南アジアにおける中印の覇権争いという現実を内包している。

中国はコロナ禍を狙って拡張的行動を開始

一方、最大の疑問は、なぜ今なのかということだ。それにはやはりコロナ禍という政治的タイミングが影響しているだろう。現在、新型コロナウイルスの感染が世界各地に拡大し、国際秩序に新たな変化をもたらしている中、インド太平洋地域では中国の拡張的行動に対する警戒心が高まっている。

東シナ海では中国の海洋活動が活発化し、日中間で新たな亀裂が生じ始めている。新型コロナウイルスの発生源を巡って、中国とオーストラリアの外交関係はこれまでになく悪化し、国家安全法を巡る香港情勢によって米中関係もさらに冷え込んでいる。

要は、日本やオーストラリア、米国などインド太平洋地域の自由民主主義国家と中国との間で価値観を巡る争いが激化しているのである。インド太平洋構想の基軸は、日米豪印によるクワッド協力である。ラダック地方で起こっていることも、その中で考えると十分に連動性と整合性が取れる。

インド太平洋地域では大国間の争いが激化する可能性も

以上のように考えると、今後インド太平洋地域では価値観を巡って大国間の争いが激しくなる可能性が高い。もちろん、経済相互依存が進んでいる今日では、中国との関係を悪化させると自国経済を崩壊される可能性もあり、各国も必要以上に事を荒立てることは避けるだろう。

しかし、価値観を巡る妥協点が見出せない中では、何かしら問題が発生した場合、各国がまず採る措置は経済制裁や貿易摩擦などである。軍事力の行使は現実的ではないが、インド太平洋地域では経済を武器とする争いがいっそう激しくなることは把握しておく必要がある。

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国際政治学者、大学教員でありながら、実務家として安全保障・地政学リスクのコンサルティング業務に従事する。また、テレビや新聞などメディアでも日々解説や執筆などを積極的に行う。
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