中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスが原因とみられる新型肺炎の感染拡大懸念が、世界中の金融市場を揺るがしている。
世界中の投資家が、2003年に発生し約800人の死者を出したSARSとの比較から経済への影響を読み取ろうとしている。
コロナウィルスの経済・金融市場への影響は?
著名経済学者の論文によると、パンデミックリスクから予想される年間損失額は世界の所得の0.6%に相当する年間約5,000億ドルと発表されている。また別の研究結果では年間で600億ドル以上、パンデミックが続けば継続的にコストがかかると試算している。
SARSの流行時には米国がイラクに侵攻するなど、複数の要因が同時期に発生しているため、パンデミックひとつの要因がどの程度世界経済に影響を及ぼすかは厳密には計算し辛いものがある。
当時の株価への影響は限定的で、SARSが大流行した中国では、一時的に株価は下落するも、半年後には元の価格に回復している。
SARSの発生時の経済的損失は400億ドルだったと発表されており、感染拡大により医薬品株が恩恵を受ける一方、観光業や旅行関連株は売り込まれる傾向にある。SARS流行時は中国の小売売上高がさえず、消費マインドの冷え込みを示した。
高級ブランドは大打撃を受ける
直近の中国株式市場では、医薬品やマスクのメーカーが急騰する一方、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)など中国に大きな市場を持つ高級ブランド関連株が下落した。
新型肺炎が報じられてから1週間弱で、LVMHやケリング、リシュモンの株価は5〜6%下落している。SARS流行時にはケリング株が33%、リシュモン株が28%下落しており、当時の状況から比較すれば下落幅は小さい。
しかし、高級ブランド品企業は既に香港の反政府デモで業績が揺さぶられているだけに、2003年よりも足場は脆弱だと考えたほうが良いだろう。
中国政府が新型肺炎を制御できなければ、消費者はブランド品が一番売れるモールや空港といった公共の場に足を運ぶのを避ける公算が大きい。既に武漢市では不要な移動、団体旅行を避けるような通達が出ている。このように公共場の実質封鎖が中国全域に広がれば、影響は一気に表面化する。
2000年当時はブランド品市場で中国の消費が占める割合はわずか1%にとどまっていた。しかし、2018年には世界のブランド品売上高の33%は中国がもたらすまで上昇している。新型肺炎を巡り危機的な状況が起きれば、業界の世界での年間売上高は3〜5%程度下振れする恐れが出てくる。
中国に依存しているブランド各社は、新型肺炎が大流行したときに、その売上減少を他で補う手を持っているとは言い難い。ネットでの販売強化を試みる可能性はあるが、高級ブランド品のネット売上比率というのは売上高全体に占める比率は小さい。店舗で買ってこその高級ブランド品なのである。そして全体の33%の売上を占める中国を別の国、国民が受け皿として穴埋めすることは非常に難しい。
航空会社も新型肺炎が大流行すれば大きな影響を受ける。SARSの流行した2003年当時、アジア太平洋地域では年間輸送量の8%、60億ドルの売上減少になったとみられる。そして北米の航空会社は同じ時期、10億ドルのマイナスとなった。
致死率上昇が経済成長を鈍化させる
国際通貨基金が発表したデイビッド・ブルーム氏ら3人の共著の論文によると、健康への影響が限定的な場合であっても、経済的な影響は急速に拡大する可能性がある。
2014年のエボラ出血熱の流行時のリベリアの例を見ると、死亡率は低下したにも関わらず、同期間に国内総生産成長率は低下した。
人々を恐れさせたのはSARSの致死率だと指摘している。SARSでは8,273人が感染し、774人が死亡し、致死率は10%近かった。2003年当時、人々は公共交通機関を利用せず仕事も休み、買い物や娯楽からも離れた。SARS流行は経済に多大な影響を与えたが、そのほとんどすべてが、人々が予防的行動をとったことによる間接的なものだったのだ。
2003年のSARS流行が中国と香港の経済に与えた影響はGDPの1〜3%、東アジア全体の損失は200億ドルと推定されている。
今回の新型肺炎も日に日に発表される死者の数が増加しているが、はっきりした原因が解明されない中で、死者数が100名を超えるようなことになれば、多くの人が余分な移動を避けるようになり、経済的影響は広がっていくことになりそうだ。
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